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吉岡俊直展 ガレリア フィナルテ(名古屋) 2023年2月21日-3月18日

ガレリア フィナルテ(名古屋) 2023年2月21日〜3月18日

吉岡俊直

 吉岡俊直さんは1972年、京都市生まれ。1997年、京都市立芸術大学大学院美術研究科版画修了。2014年に母校の京都市立芸術大に移るまで、長く名古屋造形大で学生の指導に当たった。現在は、京都市立芸術大の准教授である。

 各地で個展を開き、グループ展にも参加してきた。2001年にVOCA展に出品。2006年には、名古屋市芸術奨励賞を受賞している。

 2020年に開催された2人展のレビュー「小林亮介 吉岡俊直 ヒズミのキワ ガレリアフィナルテ(名古屋)」も参照。

吉岡俊直

2023年 個展

 吉岡俊直さんの作品は、デジタルデータを駆使したシルクスクリーンである。そこでは、3次元と2次元、デジタルデータと物質、世界に対する認知や感覚がテーマ化されている。

 吉岡さんの作品ではまず、実在する物、情景をデジタルカメラで多視点的に捉える。

 カメラポジションを変えながら、多数の写真を撮影。「フォトグラメトリ」というソフトで、その平面画像のデータを解析し、3DのCGに変換するのである。

吉岡俊直

 このソフトでは、色彩や模様など表面の要素が捨象されるため、形態、表面の凹凸と空間との関係にフォーカスすることになる。

 色彩や、図柄、陰影など表面の情報量に影響されることなく、世界認識を問い直すことができるというのが、吉岡さんの狙いの1つであろう。

 物と空間による現実世界がある。それを多視点から撮影した多数の写真画像によって、表面の色彩や模様を消した3Dの情景を立ち上げ、そのイメージをシルクスクリーンで定着するのである。

吉岡俊直

 現実の3次元空間から2次元の画像データを集め、それを基にした3Dモデルを経由して、再び2次元に還元するわけである。

 例えば、上の作品では、洗面所で鏡を見ている人物がモチーフ。鏡像が3D化していて、なんとも奇妙なイメージになっている。

 黒色のマットなゴムシートが支持体に使われているのも大きな特徴である。3Dモデルの世界が単色の粘土でつくられたようなイメージであることもあって、単なるイリュージョンとは異なった異様な物質感を伴っている。

 幻想的といってもいいが、現実と虚構、物質と現象、存在と幻影の境界域で成り立っているような、不思議な感覚である。夢の中といってもいいし、黄泉の国のようだといってもいい。

吉岡俊直

 同時に、吉岡さんの作品では、3Dイメージが不完全である。元になった写真画像のピントの甘さやデータ不足によって欠落が生じ、溶解し、崩れかけた物質のようになっているのである。

 吉岡さんは、あえて、こうした欠陥を取り込むことで、シャープさを欠いた、溶けたような物質感を出している。

 つまり、現実世界が元になってはいるが、欠落と変形があって、物や空間、情景の意味内容、表情、色彩、模様、質感の違いが捨象されたイメージなのである。

 それは、あいまいさ、不安定さ、脆弱さ、無常で常にうつろうものがあらわになった世界である。

吉岡俊直

 デジタルデータやコンピューターを使いながら、明確な、かちっとした世界ではなく、むしろ、ぬめっとした世界のあいまいさを表現しているのは逆説的である。それは、安定した関係、意味、概念への問い掛けでもある。

 現実に根ざしていながら、不気味なつくりものっぽい世界に変異しているが、それがリアルであるかもしれないということが面白い。

 現実と、それを写した写真、そこからつくった3Dイメージ、その物質としての支持体という関係が、ここにはある。例えば、支持体の厚みを深くするなど、ゴムをより物質的にしたら、どんな見え方がするだろうかと考えた。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。(井上昇治)

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文化とメディア—書くこと、伝えることについて

1980年代から、国内外で美術、演劇などを取材し、新聞文化面、専門雑誌などに記事を書いてきました。新聞や「ぴあ」などの情報誌の時代、WEBサイト、SNSの時代を生き、2002年には芸術批評誌を立ち上げ、2019年、自らWEBメディアを始めました。情報発信のみならず、文化とメディアの関係、その歴史的展開、WEBメディアの課題と可能性、メディアリテラシーなどをテーマに、このメディアを運営しています。中日新聞社では、企業や大学向けの文章講座なども担当。現在は、アート情報発信のオウンドメディアの可能性を追究するとともに、アートライティング、広報、ビジネス向けに、文章力向上ための教材、メディアの開発を目指しています。

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