Gallery noivoi(名古屋) 2022年11月5〜20日
吉田葵
吉田葵さんは1979年、三重県生まれ。名古屋造形芸術大(現・名古屋造形大)の大学院を修了。絵画を中心に制作している。
吉田さんの絵画は独特である。支持体が二重構造で、和紙にアクリル絵具で描いた画面から少し間隔をあけて、絹地に描いた画面を重ねて張っている。
前回2019年の個展では、カーテンもモチーフになっていたが、 今回はすべての作品でリボンを描いている。
envelope
リボンは舞い上がったように見えるが、再現的に描いたわけではなく、絵画的に構成されたものである。その意味ではリボンは抽象的なものともいえる。
カーテンのような襞、あるいは柔らかな格子模様を重ねた作品もある。日本画出身の吉田さんの作品は、和紙と絹、アクリル絵具と日本画顔料という素材が使われ、静謐で落ち着いた雰囲気である。
層状をなした地が和紙と絹の二層になっていることで、曲線として画面に広がるリボンに豊かな空間性と動感が与えられる。
つまり、和紙と絹という二つの支持体におけるそれぞれの地と図の関係、それが層をなすことによるシナジーによって空間性が深まり、動感が強められる。
そもそも、なぜリボンというモチーフが選ばれたのだろうか。
以前、モチーフにしたカーテンもそうだが、リボンもわずかな風で揺れることから、そこに、半透明的な空気の感覚、つまりは、完全に区切るのでも、不可視でもなく、かといって、すべてを見通せるわけでもなく、「半」「程よい」「中庸」の感覚があるからではないか。
それは、弱さの感覚といってもいい。細く描かれたリボンは、ところどころでねじれ、動き、とどまることなく、否が応でも周囲の空気を感じさせる。
それゆえ、舞い上がるように構成されたリボンは、残像のようでもある。
リボンという反復する形象がつくる奥行きと繊細なズレの感覚が、優しい揺らぎを生む。こうした視覚性を生み出すために、吉田さんはさまざまなことを試みている。
上層、下層のレイヤーの重なりに加え、下層の和紙でも、上層の絹でも、地に薄くグラデーションをつけ、柔らかな空間性を出す。さらには、点描によって震えるような空気感も演出している。
絵画の空間性と物理的なレイヤー構造によって、残像のようなイメージが深度と動き、揺らぎを生成させている。
それらは強さを志向しないで、弱さとともに空気にゆだねられている。この弱さが心地よい。パワーとはまったく逆の方に向かっている。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。(井上昇治)