Hase(名古屋) 2022年2月5〜12日(7日休み)
横溝光太郎
横溝光太郎さんは1993年、東京生まれの若手写真家。2013年からパリを拠点とし、2018年にいったん東京に戻った後、2021年からタイ・チェンマイ在住。
会場となるHaseは、筆者が初めて訪れたギャラリー。器を展示することが多いというが、空間が美しく、今回の写真作品も、とても美しくレイアウトされていた。
本展は、横溝さんの初の写真集『Soi 1』の出版記念展として企画され、 名古屋の後、東京、福岡、沖縄、大阪に巡回予定、
Soi 1
被写体は、すべてタイ・チェンマイでのスナップである。写真集から抜粋した作品とそれ以外にアーカイブされている写真で構成されている。
モノクロ、カラーともに2021年に撮影された。作品はどれも小さくプリントされ額装。壁に掛けられない分はテーブルや棚に平置きされているが、それが世界の断片のようで、また、いい趣である。
横溝さんは、大通りではなく、そこから横に入ったソイ(Soi)といわれるタイの路地を好んで歩き、撮影する。
チェンマイでは、この小道は14世紀ごろからつくられ、人々が集う寺院に通じているという。
横溝さんは、急速な経済成長で日々変貌しつつある路地を歩き、その風情のかけらをすくいとっている。
そこにあるのは観光地的な風景のスナップではない。人々の往来でも、画角を広げた小道の懐かしい街並みでもない。
ほとんど人が写されていないうえに、さりげなく被写体に接近して撮られているので、それがチェンマイや、もっと言えば、タイであることすら分からない。
ただ、そこには、たゆとうような街の気配と光、時間がほのかに匂っている。
どこでもありえるような被写体からしみだす、その場所、空間、時間の痕跡とでもいう、今後の発展や開発によって、日々消えゆくであろう、不可視のたたずまいがここにはある。
画一的な、現代的な街が失ってしまった、生活空間と人の営みが分かち難く結びついた小道の、うつろいゆく美しさ。
それは、どこにでもありそうで、そこにしかなく、確かにそこでありながら、私たちの記憶に奥深くに沈潜するものに触れる、はかなげな光のかけらである。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。(井上昇治)