愛知・豊田市民芸の森で2023年7月15日~9月18日、森のアート展Vol.18「山口百子 白南風~白露」が開催されている。
山口百子さんは1965年、金沢市生まれ。1990年、愛知県立芸術大学大学院(日本画)修了。現在は、河合塾美術研究所「こども美術教室」や愛知県春日井市の自宅で開く教室で、こどもたちに美術を教えている。
山口さんの作品は、日本画の技法で描きながらも、自由である。筆者は、1990年代、現代美術のギャラリー等で作品を見ている。
「日本画」自体が明治時代に制度的に生まれ、展開してきたものだが、山口さんは、それを踏まえたうえで、「日本画」の魅力を現代に生かすとともに自分の感覚を大切にしている。
「日本画」を制作しながら、ワークショップを通じて、愛知県を中心に美術館や学校などで「日本画」を広める活動も展開している。
「日本画」を狭く捉えるのではなく、さりとて、先鋭的にいくのでもない。ワークショップなどで、その魅力を広く伝える活動が柔らかな制作と関わっている。
18回目となる森のアート展で、豊田市が初めて公募で作家を募集。山口さんが作家として選ばれた。
今回、山口さんは、さまざまな実験を試みている。展示方法も趣向を凝らす。田舎家「青隹居」、旧海老名三平宅、茶室「松近亭」など、民芸の森の中に点在する建物内のほかに、森の中にも作品を展開させた。
作品は、展示場所それぞれの雰囲気や来歴、光の変化、風、あるいは、鑑賞者の見る位置によって、見え方が変化するように工夫されている。
作品そのもののモチーフが、水の流れや空気のうつろい、自分の体や植物などの生命であるのだが、それらの描かれたものが、作品の配置された空間、周囲の世界と響きあうように呼吸し、震え、揺らぐのである。
ささやかなことだが、作品のイメージが周囲に広がるように生気を発し、あるいは、周囲の光の煌めきや、風のそよぎによって、作品がいのちを帯び、それらが一体となって、鑑賞者の中にある記憶や思いと重なってくる。
いわば、この世界の、大きないのち、気のようなもの、その流れるような感覚と、自分の体の中を流れるものが1つになる感覚に気づくーー。
作者は、2021年に子宮体がんを手術し、子宮と卵巣を摘出した後、人体を描く思いが強まった。作品の中には、腹部にメスを入れた痛々しい痕跡を描いたイメージもある。
水のような流れの中で自分の体が漂う、あるいは落下するイメージ、自分の体がこの世界の気のようなものと交感しているような図像が、とても印象的である。
あるいは、ストレートに植物の美しさを繊細なレイヤーを重ねるようにして描いた作品や、昆虫の、まがまがしいほどの生命力を表出させた軸物もあった。
途中、展示替えもあるとのことなので、できれば、後半も見にいきたいものである。
いずれの作品でも感じられるのは、山口さん自身の身体、変わりゆく自分、気持ちの揺らぎと、それ以外の植物、昆虫などの命、そして、世界の大きないのちの流れのようなものが響き合いながら、作品の中に静かに流れていることだ。
身体がいまここに在ること、その生きている感覚を大切に、鋭敏な感受性によって、世界を感じ、喜びとともに、この世界と生きとし生けるものに向き合っている。
風が吹き抜ける建物の中に揺らめくように展示した作品、屋外の光や風にさらした作品もある。この世界の光、空気、風とのコラボレーションともいえる。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。(井上昇治)