「未完の始まり：未来のヴンダーカンマー」メインビジュアル
文化表象の実践の場としてのミュージアムの未来の可能性
豊田市美術館で2024年1月20日～5月6日、「未完の始まり：未来のヴンダーカンマー」が開催される。リウ・チュアン、タウス・マハチェヴァ、ガブリエル・リコ、田村友一郎、ヤン・ヴォーという作家5人が参加する。
「ヴンダーカンマー（驚異の部屋）」とは、絵画や彫刻に加え、動物の剥製や植物標本、地図や天球儀、東洋の陶磁器など、世界中から、美しいもの、珍しいものを集めた博物陳列室。15世紀にヨーロッパで始まり、美術館や博物館の原型とされている。
見知らぬ広大な世界を覗き見ることができる、小さいながらも豊かな空想を刺激する空間。大航海時代の始まりとともに形成されたヴンダーカンマーには、集める側と集められる側の不均衡や異文化に対する好奇のまなざしも潜んでいた。
グローバル化が進み、世界が加速度的に均質化していくなかで、今、改めて、文化や伝統とはなにか、他文化や他民族とどう出会うかが問われている。
かつて、「博物館行き」は、物の終焉を意味する言葉だったが、5人の作家たちは歴史や資料を調査・収集し、現代のテクノロジーを交えながら、時を超えた事物の編み直しを試みる。
豊田市美術館の隣に、2024年4月にできる豊田市博物館の開館に向けて開催する本展では、文化表象の実践の場としてのミュージアムの未来の可能性を探る。
展覧会概要
開催期間：2024年1月20日［土］‐5月6日［月・祝］
休 館 日：月曜日［2月12日,4月29日,5月6日は開館］
開館時間：午前10時-午後5時30分（入場は午後5時まで）
主 催：豊田市美術館
協 力：AGC株式会社、ANTENNA SPACE、PERROTIN、Taguchi Art Collection、TAKE NINAGAWA、豊田カントリー倶楽部
会 場：豊田市美術館 展示室1、 8
観 覧 料：一般1,500円［1,300円］／高校・大学生1,000円［800円］／中学生以下無料
＊[ ]内は前売券及び20名以上の団体料金
＊オンラインチケットは当日の観覧料金から100円割引（他割引との併用不可）
＊前売券は、豊田市美術館（12月24日まで）、オンラインチケット（アソビュー!）（1月19日まで）、T-FACE B館2階インフォメーション（1月19日まで）、メグリア11店舗（1月19日までで取扱店舗は本店、エムパーク店、セントレ、藤岡店、三好店、若園店、志賀店、朝日店、井上店、はなぞの店、うねべ店）
＊次の方は観覧料が無料になる（要証明）
障がい者手帳をお持ちの方（介添者1名）、豊田市内在住又は在学の高校生の方、豊田市内在住の18歳以下の方（満18歳から最初の3月31日まで）、豊田市内在住の満70歳以上の方
＊その他、観覧料の減免対象者及び割引等については、同館ウェブサイトを確認
展覧会の見どころ
博物館の開館に向けた企画
2024年4月26日に、美術館の隣に地域の歴史・文化・産業や自然などをテーマにした総合博物館が開館する。
本展は、この博物館の開館に向けて行う。博物館や美術館などのミュージアムの原型は、15世紀から18世紀にかけてヨーロッパの王侯貴族の邸宅に設けられた「驚異の部屋（ヴンダーカンマー）」にあるといわれる。その後、18世紀の啓蒙の時代に入り、美術品や博物資料などの収集品の公開は、社会の進歩に貢献する教育的・道徳的意義を持つとの理念に基づいて、美術館や博物館が設立されるようになった。
21世紀の現在、植民地時代に収奪された遺物の返還や、白人男性を中心に編まれてきた美術史の再検討が進み、欧米を中心に形成されてきたミュージアムの見直しが世界中で行われている。新しい博物館が開館する今、改めてミュージアムと社会との関係や、展示における政治的・美学的意義を探る。本展の作家たちは、国や地域のアイデンティティとはなにか、画一化していく世界のなかで伝統はどうなっていくのか、文化の真正性とはなにかを、未来に向けて問いかける。
「博物館行き」は事物の終焉？
かつて「博物館行き」とは物の生命の終わりを意味したが、事物はそのものに価値を内包しているわけではなく、その意味を作るのは人間である。
近年、現代美術において、文化人類学的思考や歴史研究的アプローチが取り入れられるようになり、作家たちが事物を別の文脈に置き直したり、まったく異なるものと組み合わせることで、新たな意味を生みだしている。
本展では、懐旧的なだけではない、事物の新たな姿や意味を見出す。
新しい博物館と美術館
豊田市博物館の建築は、環境に配慮した建築で知られる世界的な建築家・坂茂氏（1957年生まれ）が設計した。
坂氏の博物館は、谷口吉生氏（1937年生まれ）による美術館のミニマルかつ端正な建築の隣に、21世紀型のエコ建築として開館する。
本展では、ミュージアムと社会や地域の関係が変容しつつある21世紀において、博物館の領野である技術の進展、環境との関わりなどの視点から作品を展開する。あわせて、博物館と美術館における事物や作品、また展示方法の違いについて考察する。
カタログ
出版：HeHe
刊行：2024年3月中旬（予定）
価格：未定
東浩紀（哲学者）と担当学芸員の論考掲載予定
＊発売日等の詳細は、美術館ウェブサイト等で
関連プログラム
【出品作家によるトーク】
・タウス・マハチェヴァ（出品作家）＋鴻野わか菜（ロシア現代美術・詩研究）対談
1月20日［土］午後2時- 美術館講堂
・リウ・チュアン（出品作家）トーク
1月21日［日］午後2時- 美術館講堂
・田村友一郎（出品作家）＋ミラクルひかる（ものまねタレント）
開催日時、場所未定
【担当学芸員によるスライドトーク】
1月28日［日］、2月17日［土］、3月30日［土］
いずれも午後2-3時 美術館講堂
＊他の関連プログラムは、決まり次第随時ウェブサイトを更新
同時開催
新収蔵品展
期間 ：2024年3月19日［火］-5月6日［月・祝］
休館日 ：月曜日［4月29日、5月6日は開館］
主催 ：豊田市美術館
会場 ：展示室4、5
観覧料 ： 一般300円［250円］／高校・大学生200円［150円］／中学生以下無料
［ ］内は20名以上の団体料金
作家プロフィール
リウ・チュアン Liu Chuang
1978年、湖北省（中国）生まれ。上海拠点。映像、彫刻、インスタレーション、パフォーマンスと多岐に渡るリウ・チュアンの作品は、急激に変化する現代の中国の姿を映し出す。フィールドワークによる世界の周縁や都市のインフラストラクチャーの調査を交えた近年の映像作品では、サイエンスフィクション的な想像力が、地域固有の伝統や文化の未来の行方を占う。本展に出品する最新映像《リチウムの湖とポリフォニーの島Ⅱ》（2023年）では、エネルギーの獲得や情報の集積と連動するグローバル経済が世界を画一化していくなか、なお豊かで多様な文化的、民族的な声や音楽が存在することを知らせる。
主な展覧会：個展「Lithium Lake and Island of Polyphony」ANTENA SPACE（上海/中国）2023年、「もつれるものたち」東京都現代美術館（東京）2020年、「アジア・アート・ビエンナーレ2019」（台中/台湾）2019-2020年
タウス・マハチェヴァ Taus Makhacheva
1983年、モスクワ（旧ソビエト連邦）生まれ。モスクワ及びドバイ（アラブ首長国連邦）拠点。タウス・マハチェヴァは、歴史記録や文化的遺物、個人的な記憶を、ユーモアとアイロニーに壮大な空想を加えて、映像や彫刻、インスタレーションとして展開する。それらの作品では、旧ソビエト連邦下にあったダゲスタン共和国の自身のルーツをもとに、近代以降の伝統のありか、文化の真正性、国家と結びつくアイデンティティが考察されている。本展では、新作を含む映像のほか、彫刻、レリーフ、オブジェを展示する。映像作品《Tsumikh（鷹にて）》（2023年）では、日本でも知られる詩人であり祖父であるラスール・ガムザートフの国民的詩人としての記録と私的な記憶の差異を浮かび上がらせながら、なにが公的な像を形成するのかを問う。
主な展覧会：「第14回光州ビエンナーレ」（光州/韓国）2023年、「横浜トリエンナーレ2020」（横浜）2020年、個展「Cloud Caught on a Mountain」モスクワ市近代美術館（モスクワ）2017年
ガブリエル・リコ Gabriel Rico
1980年、ラゴス・デ・モレ（メキシコ）生まれ。グアダラハラ（メキシコ）拠点。ガブリエル・リコは、動物の剥製、貝殻や枝などの個人的な思い出など、発見・収集した素材にネオン管などの日常的な物を組み合わせ、現在の人間と神話、また自然環境との新たな関係を探る。有機的な素材と無機的な方程式や幾何学との結合は、宇宙の自然法則を把握しようとする作家の探究心の表れである。本展では、長く共同制作を行ってきたメキシコの先住民に捧げた作品を展示。動物崇拝に基づく鹿を取り入れた作品や、彼らの伝統的な技である毛糸絵やガラスビーズを用いた作品を展開し、現在の消費社会と神話を再び結びつける。
主な展覧会：個展「THE PROPAGATION OF TEURÁRI」ペロタン東京（東京）2023年、個展「The Discipline of the Cave」アスペン・アート・ミュージアム（アスペン/米国）2019年
田村友一郎 Yuichiro Tamura
1977年、富山生まれ。京都拠点。田村友一郎は、土地固有の歴史や文化、大衆の関心、自身の興味に基づく幅広い題材から、ときに意外な方法でそれらを繋ぎ合わせ、映像を含むインスタレーションを制作する。逸脱や迂回にみえる制作過程を経て独自のナラティブを構築するその作品は、フィクション性やフェイク感のなかに、国家のヘゲモニーや文化的コンプレックスといった重要な問題が現われる。田村の作品の多くはその都度制作されるコミッションワークで、本展でも時空を超えた人類規模の技術の進展を扱う新作を発表する。
主な展覧会：「国際芸術祭あいち2022」（愛知）2022年、「アジア・アート・ビエンナーレ2019」（台中/台湾）2019年、個展「叫び声／Hell Scream」京都市立芸術大学＠KCUA（京都）2018年
ヤン・ヴォー Danh Vo
1975年、バリア（ヴェトナム）生まれ。ベルリン拠点。幼少時に家族とともにヴェトナムから逃れてデンマークで育ったヤン・ヴォーは、亀裂の入った東西の文化背景を持つ。その作品には、自身や家族の経験と、彼らの存在を否応なく翻弄する世界の覇権、そして欧米を中心とした文化の真正性の解体とその修復が窺われる。作品に用いられるギリシア彫刻やキリスト像などの美術品、木箱や椅子などの日用品、オークションで買い集められたヴェトナム戦争に関わる私物は、ときに直接的、ときに比喩的に、詩のごとく空間に配置される。ヴォーは本展で、自らが育てる庭の花々をiPhoneで撮影した写真を展示する。生育環境に関わらず切り取られて流通される花々は、人の生にも重ねられる。
主な展覧会：「Danh Vo」ウィーン・セセッション（ウィーン/オーストリア）2021年、「ヤン・ヴォー ―ォヴ・ンヤ」国立国際美術館（大阪）2020年、「Noguchi for Danh Vo:
Counterpoint」M+パビリオン（香港）2018年、「Danh Vo: Take My Breath Away」ソロモ
ン・R・グッゲンハイム美術館（ニューヨーク/米国）2018年