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渡辺豊 NAME  青木真莉子+渡辺豊 四角いはなし

See Saw gallery+hibit(名古屋) 2020年1月18日〜2月29日

 渡辺豊さんは1981年東京都生まれ。2007年武蔵野美術大学大学院造形研究科美術専攻油絵コースを修了した。See Saw galleryでは、初めての個展である。最終日の2月29日午後6時から、豊田市美術館学芸員の千葉真智子さんを招いたトークイベントがある。

渡辺豊

どこか懐かしさのあるキュビスム的な絵画ながら、色彩の組み合わせと配置がとてもよく、幾何学的な形と有機的な形、抽象と具象、自在な線の動きが軽やかさを生んでいる作品と言えばいいだろうか。モビールのように心地よい。パウル・クレーの絵画に影響を受けたというのもうなずける。

渡辺豊

 色彩は概して透明感があって、それぞれが浸透し合うように寄り添っている。大小の多層的なモチーフは響き合うように関係性をもつ。ハーモニーを奏でるように空間が調和し、リズミカルな感じもして、風通しがよく、同時にコケティッシュでもある。しなやかでありながら、同時に引き締まった凛とした空気もある、とても統制とバランスの取れた空間だ。形と色彩が豊かで絵画空間を生き生きとさせている一方で、動物や人物と思われるイメージにはユーモアもある。

渡辺豊

 渡辺さんのコメントによると、今回の作品は、《NAME》というタイトル通り、インターネットで人物の名前を検索し、そこに出てくるさまざまな人物、家族として名づけられ生活を共にする動物の画像を多角的に捉えて再構築した「肖像画」である。渡辺さんの話がとても面白い。自身の名前「渡辺豊」は、大学教授や、ドラマー、6億円の強盗犯にいるのだという。ある名前に由来するそうした複数の顔が多層的に絡み合っているということだろう。

 自分も、そういう別人格、別の属性、職業の人間になれたのではないか。名前は記号に過ぎないが、それらの性質もまた偶然ではないか。そんな妄想、空想から発して、さまざまな偶有性を併せ持つような、多面的な視点から見たいろいろなモチーフの色面と形が息づく絵画。人物のみならず、動物や家のようなイメージもある。

渡辺豊

インターネットからの情報をそのまま受け入れているからだろうか、デフォルメが効いているからだろうか、人物あるいは動物のようなものとは読み解けても、それ以上の情報はつかみにくい。このわからなさは、キュビスム的なイメージへと、モデルとなる多角的なデータ画像を融合したためである。イメージは、エレガントでありながら、キマイラのように不気味でもある。

渡辺豊

細部を見ると分かるが、色面の重なり、浸潤する色彩、形態の面白さ、線のしなやかさ、それらのアンサンブルが素晴らしい。小さな絵がとても大きな空間を持っているように見える。それは、特定の人物、動物を多視点的に見たというイメージを超えて、ある名前をきっかけに集められた多次元的な要素、世界の断片を包含している。
一方で、その軽やかさの中に、不穏さ、こう言ってよければ、さまざまなモデル、そうした他者をも調和させたイメージでありながら、どこかこの混迷する社会、不安が広がる現代を映しとった雰囲気も感じられる。私を含め、多くの人が閉塞感を感じているこの現代においては、混乱、怯え、困惑、防御、共感、呼びかけなどの言葉が浮かび上がる。この世界を凝視し、問いかけてくるようなものを受け取るのである。

渡辺豊

もう1つのスペース、hibitの展示は、青木真莉子さんと渡辺さんによる展示「四角いはなし」である。小品の絵画が白いブロック壁にリズミカルに掲げられ、布の平面作品が空間を彩る。温かく生気あふれる空間になっている。

 

渡辺豊
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文化とメディア—書くこと、伝えることについて

1980年代から、国内外で美術、演劇などを取材し、新聞文化面、専門雑誌などに記事を書いてきました。新聞や「ぴあ」などの情報誌の時代、WEBサイト、SNSの時代を生き、2002年には芸術批評誌を立ち上げ、2019年、自らWEBメディアを始めました。情報発信のみならず、文化とメディアの関係、その歴史的展開、WEBメディアの課題と可能性、メディアリテラシーなどをテーマに、このメディアを運営しています。中日新聞社では、企業や大学向けの文章講座なども担当。現在は、アート情報発信のオウンドメディアの可能性を追究するとともに、アートライティング、広報、ビジネス向けに、文章力向上ための教材、メディアの開発を目指しています。

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