GALERIE hu:(名古屋) 2022年1月22日〜2月6日
渡辺崇 Takashi Watanabe
渡辺崇さんは1981年、京都府生まれ。2006年、金沢美術工芸大学美術工芸学部美術科日本画卒業。
現在は、岐阜県可児市を拠点に制作している。
2008年、「第19回上野の森美術館日本の自然を描く展」優秀賞。「第4回トリエンナーレ豊橋星野眞吾賞展」で、吉田俊英さん(美術史家、元・豊田市美術館長、現・四日市市立博物館長)による審査員推奨を受けている。
同展には入選を重ね、2021年の第8回展にも出品している。筆者も取材で訪れている。
破草鞋 -hasoai-
GALERIE hu:での個展は、2014年に続いて2回目。
渡辺さんは、日本画の画材で夜景を描いているが、テイストとしては日本画的ではない要素も併せ持っている。
つまり、日本画的な要素とそれとは異なる方向が両立していて、それがとても現代的なあり方で調和している。
例えば、パネルに和紙を貼って描いているが、作品の態様や展示の仕方が日本画っぽくない。
パネルの側面を丁寧に彩色している点もその1つである。額に入れるのが嫌いだからというが、このあたりも現代的である。
最近は、杉戸洋さんのように額を従来のフレームとしての性質からズラして使いこなす作家もいるが、別の意味で渡辺さんの作品もスタイリッシュである。
モチーフのせいもある。この地域だと、夜景を描く優れた画家に鈴木雅明さんがいるが、彼とはまた趣が異なる。
以前は東京の夜景を描いていた。現在は、生活圏である岐阜県可児市や美濃加茂市の夜景が題材である。
余談になるが、筆者はかつて新聞記者として美濃加茂市に4年間住んでいて、今回の作品に描かれたモチーフの場所がかなり言い当てられた。
渡辺さんのモチーフは、車のライトや、コンビニ、チェーン店などの店舗看板の明かりが多い。
自分で撮影した夜景の写真を元に描いていて、看板の光のボケ、ブレや、闇の中で尾を引く車のライトの雰囲気をとてもうまく捉えている。
渡辺さんは、この光の部分を小さめに描き、背景の闇を広くとっている。
ライトの部分が図だとすると、地になる黒色がマットなベタ塗りになっていて、闇がとても深い。渡辺さんの作品の最大の特徴と言っていい部分である。
日本画では、余白が重要な要素をもつ場合がある。私たち鑑賞者は、広がりの空間との関係でモチーフの美しさや詩情を喚起されるのである。
ただ、渡辺さんの絵画では、もう少しマットな黒色が強い。それは、黒の部分が広く、その質感に吸い込まれる感覚があるせいでもある。
水干絵具という天然の土、あるいは胡粉や白土に染料を染め付けた微粒子の日本画絵具を土佐和紙に塗っている。
伸びがよい絵具が支持体に一様にむらなくのせられていて、艶のないマットな質感の闇が広がっているのだ。
暗がりが強い地方都市の闇という言い方もできるが、渡辺さんは、背景の街並みを描くことをせず、表現を切り詰め、できる限り表現せずに表現するという方法をとっている。
ライトの部分などは、画面に近づくと、色面的、装飾的に描かれている一方、離れると、それが、ぼやっとにじむように見えるのがとても興味深い。
繧繝彩色という、装飾文様の彩色法で描いているとのことである。ぼかしでなく、淡い色から 濃い色へと段階的に濃淡をつけていく方法である。
このように、日本の絵画、装飾の伝統を踏まえながら、現代のモチーフを洗練させているという点で、着実に自分の世界を切り開いている。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。(井上昇治)