愛知県立芸術大学サテライトギャラリー SA・KURA(名古屋) 2022年9月9日~10月9日
関口敦仁
愛知県立芸術大学メディア映像専攻教授を務めている関口敦仁さんの退任記念展である。「仮想内観 君は自身の内観を獲得したか?」のタイトルがついている。
2019年に名古屋のガレリア・フィナルテで開催された「関口敦仁展-Redden Inner Sight 赤い内観-」を見て、関口さんの関心が仏教でいう「内観」にあるのだと知った。
今回の展覧会では、この内観の体験を新作のVR(仮想現実)作品として見せている。
いわば、内観という自分の内面を見つめる行為が、仮想空間において、どのように成立しうるかという実験的な作品である。
内観とは、自分の内面を見つめ直すことで、仏教や心理学などのさまざまな文脈で使われる。
2019年に名古屋のガレリア・フィナルテでの個展では、内観をテーマにした仏像彫刻「赤い内観」や、赤色の絵画「赤で円を描く」の連作を展示した。
関口さんは1980年代から、絵画によるインスタレーションで注目され、その後、メディア系のアーティストへと移行。岐阜県大垣市のIAMAS教授、続いて、愛知県立芸大教授として後進の指導に当たった。
この展覧会では、2021年、東京のО美術館で開かれた回顧展「関口敦仁展—手がとどくけど さわれない—」の展示映像や活動年譜、資料も展示されている。
1980年代後半から、現代美術を見るようになった筆者は、水戸芸術館の「作法の遊戯 ’90年春・美術の現在 Vol.1」や「ファルマコン’90幕張メッセ現代の美術展」など、関口さんが出品した展覧会の記憶とともに作品資料に懐かしく見入った。
当時は、バブル経済の時代だったが、同時に、日本の現代美術がポピュラーになっていく途上で新たな段階に進む時代でもあった。
海外の現代美術が同時代的に紹介されるようになり、筆者も心躍らせていたが、そんな時代に関口さんも精力的に活動していた。
仮想内観 君は自身の内観を獲得したか?
2つのVR作品は、いずれもハンモック風の椅子に座り、HMD(ヘッドマウントディスプレイ)を装着して鑑賞する。
そのうち、1つは、脈波センサーによって、鑑賞者の体とインタラクティブに反応する仕組みである。
「仮想内観(笑い/パルスドローイング)」は、仮想空間の中で、言葉、文字が近づいて鑑賞者の方へと向かってくる。
「笑い」が構成要素にある空間で、体が、おびただしい言葉、文字を意味、解釈以前のものとして受け止める感覚で、「笑い」の動きが脈波に反応する。
もう1つの「仮想内観(心象スケッチ)」は、宮沢賢治の「春と修羅」をモチーフに仮想空間で立ち現れてくる。
流動的な空間に包まれた自分の身体性、空間で言葉が動く感覚、その心象風景の知覚によって、自身の内面に矢印を向けさせてくれような作品である。