美濃からの発信 やきものの現在
「美濃からの発信 やきものの現在」が2021年10月1日~12月5日、岐阜・多治見市文化工房ギャラリーヴォイスで開かれている。
出品作家は、伊村俊見さん、加藤智也さん、駒井正人さん、酒井博司さん、中島晴美さん、白明さん、前田昭博さんの7人である。
多様でありながら、実力者の作品が一堂に集まり、全体が引き締まった充実の展示となっている。
10月16日には、「やきもの講座」と題したスペシャル・レクチャーも開かれ、前田昭博さん(オンライン参加)、伊村俊見さん、中島晴美さんの3人が自身の創作について熱く語った。
伊村俊見
伊村俊見さんは1961年、大阪府生まれ。金沢美術工芸大彫刻科卒業。多治見工業高校窯業専攻科修了。
黒陶のオブジェを究め、ギャラリーでの個展のほか、「非情のオブジェ—現代工芸の11人」(2004年、東京国立近代美術館工芸館)などに出品した。
「やきもの講座」でのレクチャーによると、伊村さんは、大学で学んだ彫刻が量塊性をもつのに対し、 陶芸の特長を内部の空洞性と捉え、初期に「虚」のシリーズを制作した。
その後、作品は、オブジェの外部、内部の概念を捉え返し、土が延びることでつくられる「延」のシリーズ、さらには「覆」、袋状に閉じた形としての「嚢(のう)」へと展開した。
最近は、形に意味を見いだすのでも、形というゴールを目指すのでもなく、うつろいゆく粒子の流動感の感覚から、刹那に変容する形の一瞬の相を捉えたような作品を生成させている。
酒井博司
酒井博司さんは1960年、岐阜県土岐市生まれ。名古屋工業大学卒業。多治見市陶磁器意匠研究所修了。
美濃焼を代表する志野に魅せられ、加藤孝造さんに師事した。国際陶磁器展美濃陶芸部門銀賞(2002年)などを受賞。国内外でグループ展、個展を多く開いている。
日本の伝統に根差しながら現代的なスタイルで国際的にも挑んでいる。
鼠志野の技法を現代的に表現した藍色志野は、優雅、端正なたたずまいの中にも洗練さを帯びている。
伝統、そして加藤孝造さんから引き継いだ井戸茶碗の特徴でもあるかいらぎをはじめ、志野の魅力を現代の自分らしい表現へと高めた独自性が形式美と一体になっている。
加藤智也
加藤智也さんは1972年、岐阜県多治見市生まれ。多治見市陶磁器意匠研究所修了。ファエンツァ国際陶芸展グランプリ(2009年)、国際陶磁器展美濃金賞(2017年)などの受賞歴がある。
自分の中にある生命的なフォルムを土の可塑性に作用させて外部化したような巨大なオブジェである。
上に伸びつつ、自身の重みによってよじれ、倒れながら再び立ち上がって複雑化していく形態は、加藤さんが土と格闘したであろう残響を宿している。
一見、ノンシャランとあからさまにうねり、たわみ、しなやかに絡み合いながら、その実、ダイナミックに収縮するような力強い躍動感。そうした迫力の中には、どこか繊細で、 静穏ともいえるたたずまいもある。
中島晴美
中島晴美さんは1950年岐⾩県⽣まれ。1973年、⼤阪芸術⼤デザイン科陶芸専攻を卒業後、信楽で制作。1976年、多治⾒市陶磁器意匠研究所勤務。2003年からは愛知教育⼤学教授として勤務し、現在は多治⾒市陶磁器意匠研究所所⻑。
多数の展覧会に参加している。2020年10、11月に開催された「中島晴美:50年の軌跡 京都 現代美術 ⾋居 ⾋居アネックス」も参照。
素材へのアプローチはさまざまだが、中島さんは、土の焼成で現れる宿命的な姿を徹底的に意識した制作を貫いている。
それは、釉薬のとけぐあいや、作品の素材感という感覚を超え、土の可塑性への向き合い方が、焼成を経て、作家という生身の人間の本性を表出させようとするときの、切り結ぶような過程そのものと言ってもいいものである。
陶芸の制作とは、中島さんにとって、単に素材に寄り添う、焼成後を待つものではなく、理想の高みを目指すラジカルなせめぎ合いの場である。
前田昭博
前田昭博さんは1954年、鳥取県生まれ。大阪芸術大学工芸学科陶芸専攻卒業。重要無形文化財保持者。
特別展「工藝 2020 —自然と美のかたち」(2020年、東京国立博物館表慶館)、「特集陳列 人間国宝 前田昭博 白瓷展」(2021年、MOA美術館)など、多くの展覧会に出品している。
切り詰めた、均整の取れた美しい白磁である。
白い器の形態のわずかな変化から導かれる陰影と釉薬の平滑な肌合いが特長。置かれた空間の光と影、空気をまとい、柔らかく空間を意識させながら確かな存在感を放っている。
日本海側の淡い光の中で見いだされた、余計なものをすべて削ぎ落とした形態は、和室空間の障子越しの光の中での陰影の美を象徴するような美しさともに息づいている。
駒井正人
駒井正人さんは1980年、山梨県生まれ。早稲田大学商学部卒業後、2005年に多治見市陶磁器意匠研究所を修了した。
急須などを実用性と造形性の両方からたぐりよせるように制作。 2011年に国際陶磁器展美濃グランプリ。「現代・陶芸現象」(2014年、茨城県陶芸美術館)などにも出品している。
造形性の追究が大味な方向ではなく、ミニマルな形態に向かっている。モノクロームでシンプルに見えて、深い洞察力と手作業、精神が融合した存在感を見せている。
表面の指跡、装飾を排除し、しなやかな輪郭によって、秩序と精神性がせめぎ合う関係を日本文化の中から探る姿勢が見て取れる。
創造者として、土素材、技術を徹底的を突き詰めた形に、やきものらしさ、作家らしさが凜と宿っている。
白明
中国・江西省余干生まれ。清華大学美術学院陶磁器芸術学部主任。
中国の陶芸における伝統を土台にしながら、古来の形と装飾をと現代性との相剋を超えようとする意志がみなぎる清新な実在感がある。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。(井上昇治)