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鶴田功生展 木口木版画 A・C・S(名古屋)で5月22日まで

ギャラリーA・C・S(名古屋) 2021年5月8〜22日

 鶴田功生さんは1987年、愛知県安城市生まれ。名古屋造形大学で若月陽子さんから木口木版を学び、愛知県立芸大大学院を修了した。

 チョウやユリ、イソギンチャクなど、動植物をモチーフに木口木版を制作するのが基本である

鶴田功生

 モチーフからも、それぞれの作品からも、あるいは制作プロセスからも、鶴田さんが自然とともに生き、実際に生き物や植物に触れることに自分が生きている感覚を重ねていることが分かる。 幼いころから、生き物がとても好きだったという。

  それでいて、 鶴田さんの作品が独特なのは、それを通常の木版画にとどめず、コラージュなどの技法と組み合わせることで、自在な表現を展開させているところだ。

鶴田功生

 その特徴とは、まず合成である。切り抜いたイメージをモンタージュするように組み合わせ、現実にはありえない意外性のあるイメージをつくりだす。

 版画の特徴である複数性がいかんなく発揮され、同じ版から刷られたイメージが連鎖、増殖する。

鶴田功生

 もう1つの特徴は、平面性を超え、形態を盛り上げて起伏をつくり、それらを貼り合わせることでレリーフ状にしていること。版画とは思えない立体感、空間性が生まれている。

 図鑑やインターネット画像のみならず、自ら昆虫採集もし、動植物の緻密な形態、繊細な動き、表情を捉えている。 ツゲ材を使い、 ビュランで 丁寧に彫ったイメージは、とても繊細。硬質というより軟らかい。

鶴田功生

 木版画によるイメージを雁皮紙に刷って裏打ちしたものを切り抜き、多様な表現方法へと応用していく。

 小さな木口に生き物を彫ったシンプルな作品では、微細な表現から生命そのものの美しさ、感触が伝わる。

 一部は、版木を寄せ木にし、より大きなサイズを表現。力強い野趣をも生んでいる。

鶴田功生

 切り取ったチョウの羽を折るなど、少し手をを加えるだけで、動き出すように生き生きとする。

 鶴田さんは、小さな動植物を観察するミクロの目と、大きな生態系として自然をながめるマクロの目の両方を統合することで、自分の世界を表現している。

鶴田功生

 ミクロの目は、生き物の形、模様、動き、表情、つまりはその存在へと注がれ、優しくいたわるように対象の姿をすくいあげる。

 マクロの目には、そうした生き物が自身と同じ世界に共存していることへのシンパシー、自身がそうした生命力、神秘的な存在感とつながりをもてることへの喜びがある。

 生き物との共存のイメージは、ときにフィクションであるのだが、それが違和感なく、むしろ、自然界への愛のようなものとして見る者に浸潤してくる。

鶴田功生

 それは、そうした豊かな自然界が失われることへの危機感と表裏をなしている。

 自然界を見るときのおおらかな目、すべてを包む込むような視点は、この作家の大きな特長である。

 例えば、チョウが生い茂る花に集まっているように見える作品では、実は、その花はイソギンチャクである。海の生き物が花のように見え、そこにチョウが共生しているのである。

 コラージュは、こうしたイメージの意外性に加え、版画を盛り上げることで立体感を生み、新たな表現手法につながっている。

鶴田功生

 失敗作や旧作に手を加えることで、別の作品に再生させる試みもあるのだが、そうした鶴田さんの制作態度もまた、すべてを包む込む、状況を受け入れる自然の懐の深さに通じる気がする。

 生き物や植物へのまなざし、生命力への深い共感、版画の複数性と繊細な表現、コラージュが一体となって、新たな作品として更新されていく。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。(井上昇治)

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文化とメディア—書くこと、伝えることについて

1980年代から、国内外で美術、演劇などを取材し、新聞文化面、専門雑誌などに記事を書いてきました。新聞や「ぴあ」などの情報誌の時代、WEBサイト、SNSの時代を生き、2002年には芸術批評誌を立ち上げ、2019年、自らWEBメディアを始めました。情報発信のみならず、文化とメディアの関係、その歴史的展開、WEBメディアの課題と可能性、メディアリテラシーなどをテーマに、このメディアを運営しています。中日新聞社では、企業や大学向けの文章講座なども担当。現在は、アート情報発信のオウンドメディアの可能性を追究するとともに、アートライティング、広報、ビジネス向けに、文章力向上ための教材、メディアの開発を目指しています。

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