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愛知県立芸術大学退任記念 土屋公雄 ときめきの庭/記憶の部屋 古川美術館 分館 爲三郎記念館

 1955年福井市生まれの彫刻家、環境造形アーティスト、土屋公雄さんの愛知芸大退任(2020年3月)を記念する展覧会が、名古屋・池下の古川美術館分館爲三郎記念館で2020年2月6日から3月1日まで開かれている。

 愛知県立芸術大学サテライトギャラリーSA・KURA(名古屋)、豊田市美術館ギャラリー(愛知県豊田市)での展示に続く一連の記念展。創建85年を超える数寄屋建築、日本庭園と対話して設置された新作展示を中心に大変見応えのある展示である。2月23日午後2時から、土屋さんのアーティストトークがある。

 2020年3月14日〜29日には、愛知県岡崎市のmasayoshi suzuki galleryで、国島征二さんと土屋さんの二人展が開かれる。

土屋公雄

 土屋さんは、日大を経て、1989年に英国ロンドン芸術大学チェルシーカレッジ美術彫刻科修士課程修了。1990年に朝倉文夫賞を受けるなど90年代以降、注目された。よく知られたように「所在・記憶・時間」をテーマに、流木や自然木、解体された家屋の廃材や、焼尽した灰などを使った作品で存在感を示してきた。

 古川美術館によると、土屋さんが今回のような日本建築で作品を展示をするのは初めて。作品50点余りが、入り組んだ構造の数寄屋建築の各所に配置され、考え抜いた構成によって、日本の伝統的な空間と明かり、借景となる日本庭園、うつろう自然光の中で、象徴性を帯びながら豊かな空間性を現前させている。

 今回の作品は、いずれも大型のものではない。だが、作品の存在感と内在する深遠な記憶と時間が、かつて古川美術館の初代館長、故・古川爲三郎さんが住んだという日本家屋と庭園のランドスケープ、記憶と時間と共振するようで、見ていてとても充実感を感じる。

 とりわけ、今回、土屋さんは、日本の原風景ともいえる「山」を主題に据えた。急峻な山岳地帯でなく、人が暮らす地域から眺められるなだらかな山である。そうした大和絵にも描かれるような山容から、島国ゆえに私たちになじみ深い海景、さらに土屋さんの故郷である福井の記憶へとテーマがつながり、それを見る鑑賞者の内面にある風景、記憶にも連鎖する。

土屋公雄

 最初に出合うのは、黒御影石で彫られた日本の山が、西洋の彫刻作品集の積まれた上に置かれた作品である。それらの美術書の多くは閉じられているが、1冊は観客に見えるように広げてある。掲載されている作品は、ブランクーシの「眠れるミューズ」だ。

 次の部屋には、ブランクーシへのオマージュともいえる作品が、静かに息づいている。土屋さんのミューズは、陶器の破片を寄せ集めて楕円球にしたもの。高度成長期の大量生産、大量消費時代に育った土屋さんの原点には、打ち捨てられたもの、破棄されたものへの思い、そこに宿された記憶があるはずだ。新たな命を吹き込むことで、遠大な人間の歴史と時間、ささやかな人間の営みと存在、物にはらむ記憶を見つめてきたのだろう。とても美しい作品で、淡い光を受け、人間の営為のかけがえのない時間を想起させずにはおかない。

土屋公雄

 所どころに配置された小品も見逃せない。火割れしたグラス、廃材、地球儀など記憶をはらんだ断片の素材で構成する作品だけでなく、窓際には、さりげなくブロンズ作品が置かれ、外光の変化で繊細な表情を見せていた。筆者が行ったのは午後で薄曇りだったが、空間に溶け込んだような切なげな光の中で静謐な佇まいを見せ、空間の豊かさをも気づかせた。

 大桐の間の展示が、今回の展覧会の白眉ともいえる山のインスタレーションである。黒御影石の山が畳の広間に配され、外の庭園と一体化した景観を生んでいる。木曽の深山の石組みを模した庭園の滝へと黒御影石の山並みが続くように景色が広がっているのに気づく。よく見ると、庭園にも、白御影石の作品があって、室内の黒御影石と対比される。

 黒御影石の山並みは、杉と桐を使って遠近感のある山の重なりを表現した 欄間の装飾や、窓側にある組子欄間の山の文様、あるいは、床の間の野田九浦の掛け軸の山などと響き合っている。

土屋公雄
土屋公雄

 続く瓢の間は、一転、畳の上などに、アンティークガラスで包んだ白大理石や自然石を数点ずつ配した空間。海景が表現され、畳の上の石が、海面から屹立する烏帽子岩や、大海原の孤島に見える。床の間に掛けられた四条派の日本画家、今尾景年の掛け軸には雁が描かれている。絵の中の情景とインスタレーションが呼応する構成である。

土屋公雄
土屋公雄

 その後も、故郷の福井の実家近くにあったという工場の記憶をもとに、廃材をアンティークガラスで覆った「遠い風景」、2020年制作の最新作であるブロンズとアンティークガラスの「Bird/ねむり」、中庭にさりげなくしつらえた「石の家1・II」など、小品が日本家屋の空間、庭園に配される。

 会場で配られるリストと見取り図を見ながら、作品を探すのも楽しい。爲三郎記念館の中を歩きながら思うのは、変化する空間、照明、ううろう自然光と陰影、畳、障子や襖、欄間、廊下、板壁、床の間、庭園などの諸要素と、土屋さんの作品との関わりがとても美しいこと。作品、空間、視界、光や陰影と出合うという新鮮な体験が継起的に訪れる。

土屋公雄

 作品が展示されている爲三郎記念館の呈茶席・数寄屋カフェでは、和菓子と抹茶を楽しめるセットがある。ゆっくり訪れたい展覧会である。

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文化とメディア—書くこと、伝えることについて

1980年代から、国内外で美術、演劇などを取材し、新聞文化面、専門雑誌などに記事を書いてきました。新聞や「ぴあ」などの情報誌の時代、WEBサイト、SNSの時代を生き、2002年には芸術批評誌を立ち上げ、2019年、自らWEBメディアを始めました。情報発信のみならず、文化とメディアの関係、その歴史的展開、WEBメディアの課題と可能性、メディアリテラシーなどをテーマに、このメディアを運営しています。中日新聞社では、企業や大学向けの文章講座なども担当。現在は、アート情報発信のオウンドメディアの可能性を追究するとともに、アートライティング、広報、ビジネス向けに、文章力向上ための教材、メディアの開発を目指しています。

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