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坪井孟幸展 Global warming ギャラリーA・C・S(名古屋)2024年10月5〜19日

ギャラリーA・C・S(名古屋) 2024年10月5〜19日

坪井孟幸

 坪井孟幸さんは1943年、名古屋市生まれ。武蔵野美術大学卒業。制作拠点は名古屋市緑区で、A・C・Sでは1996年から個展を開催している。

 80歳を越えた今も銅版画、ドローイングを中心に制作を続ける。アマゴ釣りをきっかけに1990年前後から自然がモチーフになった。

 自然の息遣いを全身で受けとめ、自らが自然と一体になったような繊細な感覚で清新なイメージを表出させてきた。

 2020年の個展で展示されたパステル画には、自然とふれあう優しい心情があふれ、2022年の個展では、一転、作品から強いメッセージ性が感じられた。

 今回の作品も2022年で展示されたものに近く、一見、細やかで若々しい作風の銅版画ながら、作家の祈りが響いてくる。

Global warming 2024年

 坪井さんが今回の個展で訴えているのは、地球温暖化に対する具体的な行動である。海面上昇、高潮、洪水、豪雨、それらによる熱中症、食料不足、生態系損失、インフラ機能停止など、危機的な状況が訪れようとしている。すべて、人間の傲慢さの影響である。

 私たちの多くもそうだろうが、山や川などで自然に親しんできた坪井さんは、環境の変化と危惧を肌身で感じている。

 作品は、2色2版の銅版画である。下層には、緑と白を混ぜ、ぎっしりと文字が書かれている。英語も日本語もあるが、いずれも地球温暖化に関する言葉がひたすら、これでもかこれでもかと反復されている。

 その上から重ねられるのは、青と白を混ぜて描かれた自然のイメージである。下層の言葉に対し、絡みつくような線が広大無辺の流れとなっている印象だ。

 下層の言葉は概念、思考というより、坪井さんのこころの最も深いところから現れた祈り、念いであろう。そして、上層の自然はとどまることなく、うつろいゆく生命そのものである。

 つまり、概念、思考を超えた深い祈りと、大いなる生命が坪井さんの作品の中で、その純粋性において出合っている。

 自然がもつ叡智、多様性、その強さと無限の広がりに、人間のこころ、いのちが触れ合い、一体となることが希求されている。自然と人間が共にあること、人間もまた自然の一部であることが求められているのである。

 坪井さんの作品はコンセプチュアルなものではない。人間中心主義の認識が自然を高みから見下ろしたものではなく、言葉であって言葉を超えたこころにおいて、自然とその一部である人間が新たな関係性を結びあってほしいという作品なのである。

 言い換えると、人間と自然という対比ではなく、人間が自然の中のほんの一部であること、あたかも海の中のひとしずくであることを感覚、身体で実感したとき、本当の自然が観えてくる。

 それは、具象性、抽象性が不可分となったような自然、つまり、感じること、観えることが深くなって、自然が包括的な全体性、宇宙となるような世界観である。

 生きとし生けるもの、大地や海、空、水や空気、光、それら万物の生命の原理の宇宙的な広がりの息遣いと、坪井さんの念いが一つになって静かに響いてくる。

 最後までお読みいただき、ありがとうございます。(井上昇治)

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文化とメディア—書くこと、伝えることについて

1980年代から、国内外で美術、演劇などを取材し、新聞文化面、専門雑誌などに記事を書いてきました。新聞や「ぴあ」などの情報誌の時代、WEBサイト、SNSの時代を生き、2002年には芸術批評誌を立ち上げ、2019年、自らWEBメディアを始めました。情報発信のみならず、文化とメディアの関係、その歴史的展開、WEBメディアの課題と可能性、メディアリテラシーなどをテーマに、このメディアを運営しています。中日新聞社では、企業や大学向けの文章講座なども担当。現在は、アート情報発信のオウンドメディアの可能性を追究するとともに、アートライティング、広報、ビジネス向けに、文章力向上ための教材、メディアの開発を目指しています。

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