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坪井孟幸展(2020年) ギャラリーA・C・S(名古屋)11月14-28日

ギャラリーA・C・S(名古屋) 2020年11月14〜28日

 坪井孟幸さんは1943年、名古屋市生まれのベテラン作家である。A・C・Sでは、1996年から個展を開いている。

 武蔵野美術大学を卒業。現在も名古屋市緑区に住み、作品を発表している。

坪井孟幸展

 主に版画を制作してきたが、今回は、ドローイングを中心に発表。大学時代は、まだ銅版画やリトグラフを学ぶコースがなく、石膏デッサンや油絵を中心にオーソドックスに学んだという。

 坪井さんが版画制作に力を注ぐようになったのは、1967年に、名古屋造形芸術短期大学が開学した後である。

 請われ、同短大専攻科で版画家の野村博さんと指導する機会を得て、その頃から制作の中心に銅版画を据えることになった。名古屋で、まだ銅版画を制作する作家が少なかった時代である。

 造短で版画の教育に携わる期間は11年間に及んだ。

坪井孟幸展

 以前は、塹壕を抽象化したイメージで画面を構成するなど、東西ドイツの統合、湾岸戦争など社会的な主題をモチーフにしていた時期もある。

 40代半ばの1990年前後から、川とそれを包む自然がモチーフに選ばれるようになる。きっかけは、知人に連れられて出かけた吉田川(岐阜県)でのアマゴ釣りだった。

 こんなに美しい川があるのか、こんなに美しい魚がいるのか。そんな感動が坪井さんを川に向かわせた。

 川漁師がまだ生きていた時代。本を読み、現地を訪ね、見聞を広めるうちに、川が自分の帰る場所になった。一人で、吉田川を歩き、四季折々の風景と出合ううちに、川と絵が結びつくようになった。

坪井孟幸展

 川の風景が身近になり、自分の生きることと一体化した。そうして、自然の呼吸ともいうものが作品のテーマになったのである。

 今回の出品作のモチーフは、海上の森(愛知県瀬戸市)、本宮山(愛知県岡崎市・豊川市・新城市)、吉田川(岐阜県郡上市)。作品の多くには、「a tale of spirits(精霊の物語)」というタイトルが付いている。

 日常の川を静かに見つめる。季節の小さな変化と水の流れの清冽さを感じる。自分の呼吸と自然の呼吸がひとつになる。

 そのせせらぎが連れてくる音、天空から注ぎ、自然の中に散りばめられる陽光、柔らかに踊るような風。

 川面と河原、草むら、森。光も音も、風も湿気も、気温も、場所によって異なり、そして変化する。

 それらに形はない。抽象的なものなのに、自分がその場に身を置くと見えるもの、聞こえるもの、感じられるものがある。

坪井孟幸展

 その中にたたずみ、自分の体と精神を開放し、それへの思いを画面に定着させることが、生きることと同義になった。

 自然の呼吸が自分と一体となって、自分の呼吸のように感じられるようになった。

 坪井さんは言う。その場所のその時にしか感じられないものを表現したいと。

 一部に銅版画があるものの、今回の中心は、パステルによるドローイングである。パステル画の発表は初めてという。これまでの個展での作品は、版画やコラージュが多かった。

 今回は、風景に出合ったときの気持ちを素直に表現するため、自由に手を滑らせることを第一に考えた。中間色の色彩を豊かに画面に載せるのにも、版画より好ましく思えた。

 何度も通って、自分に馴染みになった自然である。 

 作品は、とても清々しく若々しい。少年のような坪井さんと精霊の対話が聞こえてきそうな作品である。

 

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文化とメディア—書くこと、伝えることについて

1980年代から、国内外で美術、演劇などを取材し、新聞文化面、専門雑誌などに記事を書いてきました。新聞や「ぴあ」などの情報誌の時代、WEBサイト、SNSの時代を生き、2002年には芸術批評誌を立ち上げ、2019年、自らWEBメディアを始めました。情報発信のみならず、文化とメディアの関係、その歴史的展開、WEBメディアの課題と可能性、メディアリテラシーなどをテーマに、このメディアを運営しています。中日新聞社では、企業や大学向けの文章講座なども担当。現在は、アート情報発信のオウンドメディアの可能性を追究するとともに、アートライティング、広報、ビジネス向けに、文章力向上ための教材、メディアの開発を目指しています。

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