TOPICA PICTUS こざかほんまち
2019年11月から2020年2月末にかけ、造形作家で批評家の岡崎乾二郎さん(1955年生まれ)の大規模な個展「岡﨑乾二郎-視覚のカイソウ」があった豊田市美術館で、2020年10月17日〜12月13日、特集展示「岡﨑乾二郎 TOPICA PICTUS こざかほんまち」が開催されている。
「岡﨑乾二郎-視覚のカイソウ」については、「岡﨑乾二郎 視覚のカイソウ 豊田市美術館 岡崎乾二郎さんの全貌紹介 講演から読み解く」を参照。
豊田での「視覚のカイソウ」 展終幕後、世界中がコロナ禍による危機と不安に陥る中、岡﨑さんは外出も困難な状況下でアトリエにこもり、3月から6月にかけ、集中的に150点を超える絵画シリーズ「TOPICA PICTUS」を手がけた。
岡崎さんは、「世界にさまざまな場所があり、無数の考えるべき問題=トピック(アリストテレスによるTOPICA)があるように、絵画はそれぞれ固有の問題、特別の場所に向き合って制作される」としている。
そのことこそが「それぞれの絵を独自のものとし、その無数の場所のネットワークが世界を編み上げている」と岡﨑さんは説明している。
この絵画シリーズは分割され、時期をずらしながら、各地で展示される予定。
10月中旬時点では、東京国立近代美術館、 Takuro Someya Contemporary Art(東京) 、 南天子画廊(東京) の4カ所で分散的に展示されることが決まっている。
各会場では、展示場所のある地名が展覧会タイトルになっている。
特集展示「岡﨑乾二郎 TOPICA PICTUS こざかほんまち」(10月17日〜12月13日、豊田市美術館)、「TOPICA PICTUS たけばし」(2020年11月3日〜2021年2月23日、東京国立近代美術館)、「TOPICA PICTUS てんのうず」(10月31日〜12月12日、Takuro Someya Contemporary Art)、「TOPICA PICTUS きょうばし」(11月6日〜12月12日、南天子画廊)である。
その全貌は、場所なき場所として、画集『TOPICA PICTUS』にまとめられ、そこでのみ見ることができる。
1つ1つの絵画は、それぞれが固有の絵画であり、その事実に留まることによって、ここの場にありながら、別の場へと通じる、特別な場所を宿しているという。
それぞれの絵画が、過去の絵画などを参照していて、ある場所、ある記憶を宿している。
岡崎さんの絵を通して、見えなかった回路が開かれ、もう1つの回路、記憶、場所へとつながる。
それによって広がる世界の豊かさが感じされる作品シリーズである。
豊田では、10点の作品が展示された。
会場で配布される個々の作品に関するエッセイでは、作品制作プロセスで起こった岡﨑さんの思考の流れを知ることができる。
この記事では、10点のうち2点を、エッセイの要約とともに紹介する。
豊田市美術館によると、岡﨑さんによる長文のテキストを作品を前にして読むことによって、鑑賞者がより深い経験をすることができる。
無数の場所が世界を編み上げるように、各地に展示された絵が、それぞれの場所を現前させ、ネットワーク的に世界を立ち上げる。
その特別な場所の1つ1つに、豊田市美術館で出合えるというわけである。
The calf-bearer/モスコポロス、荷物を落とす
岡崎さんのエッセイでは、紀元前560年の彫刻《仔牛を担ぐ青年》が引用されている。
アルカイック期のギリシャ彫刻がそうであるように、この彫刻像は、強い正面性があるが、男が肩に担いでいる仔牛だけは、男に話しかけるように首を傾けている。
岡崎さんは、ここに仔牛と男の間に通じ合った心の動きを見る。
The rolling hills and The clouds/王莽がときのとちのき
岡崎さんのエッセイでは、中国の新王朝を打ち立てた王莽(おうもう)について書かれている。
王莽は、極端に裏表のある人物で、王莽が出現したときが「おおまがどき」(逢魔時)、すなわち、夕方の薄暗くなるとき、魔物に遭遇するとき、災禍を蒙るときであるという。
エゴン・シーレ《Four Trees》(1917年)が紹介されている。夕暮れの空が、赤、緑、青で襞ができたように触覚的に描かれている。4本のトチノキが暗い緑色の大地から立ち上がり、夕日の空のまがまがしい襞に立ち向かっている。