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豊田市美術館がリニューアル 6月30日まで記念コレクション展

 改修工事のため休館していた豊田市美術館が2019年6月1日にリニューアルオープンし、式典が開かれた。太田稔彦市長は「所蔵品から約150点と市が誇る織田信長像が展示でき、まさに豊田市の底力を示すオープニングになった。派手ではないが、市民目線、お客さん目線のリニューアルになった」とあいさつ。続いて、村田真宏館長は今回の改修について、LEDの全館導入、地震対策やサインの見直し、wifi整備によるスマホで作品解説を読めるサービス、傘立ての更新などに触れ、「ハード面はもとより、使いやすさ、快適さ、安全安心な空間を目指した」と話した。

 この後、村田館長は「世界を開くのは誰だ?」と題した展示の概要を説明。「身体」「日常」「歴史・記憶・社会」「まだ見ぬ世界」の4章立ての構成を解説しつつ、「世界に対して、様々な側面から気づきを促す展示になっている」とアピールした。この他、修復を終えて特別公開となった織田信長像についても言及。テープカットに続いて、待ちわびた市民らが展示室に入り、じっくりと収蔵作品を味わった。

 第1章の「身体」の展示の最初を飾ったのは、塩田千春の作品「不在との対話」と加藤泉の無題の絵画。エゴン・シーレや村上華岳、高松次郎、ミヤギフトシ、ミケランジェロ・ピストレット、アルベルト・ジャコメッティ、フランシス・ベーコンなど、洋の東西や時代を問わず、美術家にとって普遍的な主題である身体、人間をテーマにした絵画、インスタレーション、彫刻などが展示された。三重県出身で先ごろ、東京の国立新美術館で大規模な回顧展を成功させたイケムラレイコから、愛知県立芸大出身の坂本夏子、村瀬恭子などに繋げた展示に引きつけられながら歩を進めた後、1998年に豊田市美術館でインタビューさせていただき、2011年に亡くなったポーランド人画家、ローマン・オパルカの絵画に久しぶりに出合い、懐かしさを覚えた。草間彌生、白髪一雄、石原友明、長谷川繁へと展示は続いた。

 第2章の「日常」では、日高理恵子、松江泰治、中村一美、丸山直文の大きな絵画や写真が飾られた空間がゆったりとして心地よかった。その後も菱田春草、熊谷守一、堀浩哉、中西夏之、佐川晃司ほか、地元の櫃田伸也、吉本作次らの絵画や、金氏徹平、堀内正和、トニー・クラッグらの立体(彫刻)がバランス良く導線をつくり、観客が語らいながらそれぞれの作品に見入る姿が見られた。個人的には「このような作品も収蔵していたんだ」と興味深く思ったのは彦坂尚嘉の「フロア・イベントNo.3」の一連の写真作品である。

豊田市美術館展示室

彦坂尚嘉「フロア・イベントNo.3」(1972年、print2007年)

 3章の「歴史・記憶・社会」では、大空間の第一展示室に贅沢に展示されたマリオ・メルツ、ミケランジェロ・ピストレット、ジュゼッペ・ぺノーネの作品が圧巻だ。第1章に展示されていたアリギエロ・ボエッティなども含め、イタリアの「アルテ・ポーヴェラ」(貧しい芸術)の作家たちで、豊田市美術館が収蔵に力を入れてきた作品群である。階段を上がって、展示室2には、加藤翼の映像インスタレーション、さらに展示室3には、若林奮、Chim↑Pom、榎忠ら日本人アーティストがそれぞれ自身の問題意識を深めた作品が並んでいた。

 最後の4章の「まだ見ぬ世界」では、ルーチョ・フォンターナ、ブリンキー・パレルモ、イミ・クネーベル、村上友晴、諏訪直樹、岡崎乾二郎らの作品に続き、県内在住の佐藤克久が収蔵品に新作等も加えた構成で楽しませた。絵画を絵画たらしめている諸要素を分析・解体してずらすことで新たな表現の可能性を追求する作品は、軽やかで自由な発想に滿ち、ユーモア満点。それでいて知的なたくらみがあるのが興味深い。

豊田市美術館展示室
マリオ・メルツ「廃棄される新聞、自然、蝸牛の体のうちに、空間の力として継起する螺旋がある」(1979年)

佐藤克久の作品「空空枠枠」
佐藤克久「空空枠枠」(2019年)

 以上、駆け足の紹介に過ぎないが、全館を使ってコレクションを紹介する豊田市美術館のリニューアル展は、開館以来、国内外の近現代美術、デザイン・工芸を中心に収蔵・企画の両面で意欲的な試みを続けてきた同館の真髄が分かる高いクオリティーの展観だった。1995年の開館直後から、新聞記者として美術を担当することになった私は、豊田市美術館を取材することを通じて、多くを学ばせていただき、アーティストへのインタビューなどで貴重な経験をさせていただいた。地道な努力を重ね、一般には馴染みが薄かった現代美術の重要な作品をしっかり収蔵し、果敢に展覧会を企画してきた同館の歩みは、美術を愛する鑑賞者に寄り添い、新たなファンを掘り起こして育てる歴史でもあった。谷口吉生さんの美しい建築も合わせ、今後も作品とアーティスト、鑑賞者が出合い、多様性とともに可能性を開く場であり続けてほしい。

豊田市美術館正面
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文化とメディア—書くこと、伝えることについて

1980年代から、国内外で美術、演劇などを取材し、新聞文化面、専門雑誌などに記事を書いてきました。新聞や「ぴあ」などの情報誌の時代、WEBサイト、SNSの時代を生き、2002年には芸術批評誌を立ち上げ、2019年、自らWEBメディアを始めました。情報発信のみならず、文化とメディアの関係、その歴史的展開、WEBメディアの課題と可能性、メディアリテラシーなどをテーマに、このメディアを運営しています。中日新聞社では、企業や大学向けの文章講座なども担当。現在は、アート情報発信のオウンドメディアの可能性を追究するとともに、アートライティング、広報、ビジネス向けに、文章力向上ための教材、メディアの開発を目指しています。

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