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常田泰由 and Books gallery N(名古屋)で7月23日-8月7日

gallery N(名古屋) 2022年7月23日〜8月7日

常田泰由

 常田泰由さんは1980年、長野県生まれ。2004年、東京造形大学造形学部絵画専攻 版表現コース卒業。2006年、愛知県立芸術大学大学院美術研究科油画専攻 版画研究室修了。東京都在住。

 常田さんは、木版画と、そこから派生した表現を、ドローイング、絵画、コラージュ、アートブック、インスタレーションなどへと展開させている作家である。

 それらは、「切断」「選択」「めくる」「リサイクル」「フレーミング」などの鍵語でつながっている。。

 gallery Nでは、2008年から個展を開いている。2011年、2013年、2017年と続き、今回は5年ぶり。ほかに、出身地の長野県、東京、海外などでも展覧会を開いている。

常田泰由

 2022年3〜5月には、群馬県の太田市美術館・図書館で「めくる、ひろがる-武井武雄と常田泰由の本と絵と-」という展覧会があった。

 太田市美術館・図書館が、2017年から開いてきた「本と美術の展覧会」シリーズの一環で、童画家の武井武雄(1894〜1983年)との2人展である。

 筆者は見ていないが、今回のgallery Nでの個展とも通じあい、常田さんの作品世界の大切な部分をテーマに据えた展覧会だといえる。

and Books

常田泰由

 常田さんの作品は、とてもシンプルで、それでいて、かわいく、ポップな印象である。色彩は鮮やか、形は明瞭である。

 そこから派生したドローイングやペインティング、版木を切断して作ったコラージュなども同様で、心地よく、リズミカルである。

 常田さんは、美術館などで開くワークショップで、参加者が、着色した多様な形の板を選んで、それを組み合わせて絵にする取り組みをしている。

 何もない白紙を前に描けない人でも、形を選んで構成するのなら、絵をつくれる。

常田泰由

 このように、ゼロからイメージを生成させるのではなく、自分であらかじめ用意した「形」のコレクションから「選択」して、その組み合わせによって作品を作るというのは、ワークショップのみならず、常田さんの制作の主眼となっている。

 こうした発想は、今回、ギャラリーの壁に展開した、空間へのコラージュと言ってもいいインスタレーションでも見て取れる。

 これは、前述した太田市美術館・図書館の北側スロープに展開した作品を、規模を縮小して再現したバリエーションである。

 常田さんの作品は、木版画から出発しながら、さまざまな展開を見せている。

常田泰由

 その中には、ジャンルを超えた中間的な性質をもっているものもあって、この作品もその1つである。

 自発的、即興的に生まれる形ではなく、「選択」と「組み合わせ」が基本になっている。それは、世界をフレーミングしてイメージを捉える写真撮影の感覚に近い。

 常田さんは、「自分を出したくない」と言っている。版画という間接性の表現から生まれた発想だともいえる。自分を出さないことが逆に自分らしさになるという逆説も成り立つだろう。

 形のサンプル、廃材を選んできて、一定のルールや条件での(再)利用、組み合わせ、加工によって、作品が決まってくる。

常田泰由

 壁に展開したこのインスタレーション作品では、木版画の版木と同じ木を使い、版画で使うインクを染み込ませて拭き取っている。形は、自身のドローイング集から選んで、レーザーで加工している。

 太田市美術館・図書館では、約40個、今回は10個ほどを壁に掛けている。版木や版画用のインクの質感が感じられる作品である。

 ギャラリー空間の壁や床にさまざまな作品を散りばめた展示も、常田さんのポップな作品ならではの雰囲気がとてもよく、全体が空間へのコラージュになっている。

常田泰由

 中でも、アートブックは、紙やインク、版木の質感、リサイクル、コラージュの手法など、木版画から表現を広げていった常田さんの考え方のエッセンスが詰まっている。

 過去の版画の試し刷りや刷り損じ、汚れたものなどが再利用され、本を収めるケースは、形をくり抜いた版木などがリサイクルされている。

 既にある版画作品からトリミングするようにイメージを抽出したり、版画を重ねて一定のルールで裁断したりしたページを集めて、小さな本として綴じている。

 刷ったときに、版木から紙をめくると、そこにイメージとの出会いがある木版画。常田さんの本には、その楽しみが詰まっていて、触れることで、独特の質感も体験できる。

常田泰由

 いったん刷った版画作品を任意に切断して、リサイクルするコンセプトは、まさしく世界を切り取る写真のフレーミングに近い。

 デザインワークに近い感覚で軽やかに版画の可能性を追究し、応用していく発想である。

 解釈が広がることで、アートブックも、「めくる版画」「出会う版画」「触れる版画」と捉え直すことができる。

 常田さんは、現代では、古めかしいメディアの印象もある木版画を、「形の選択」「リサイクル」「アートブック」「コラージュ」「フレーミング」によって拡張し、既存の技法、ジャンルをずらしつつ、現代的な方向に導いている。

 既存の作品を切断して綴じる、形のドローイングから選んで貼るというコラージュによって、表現の可能性、面白さを堪能させてくれる。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。(井上昇治)

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文化とメディア—書くこと、伝えることについて

1980年代から、国内外で美術、演劇などを取材し、新聞文化面、専門雑誌などに記事を書いてきました。新聞や「ぴあ」などの情報誌の時代、WEBサイト、SNSの時代を生き、2002年には芸術批評誌を立ち上げ、2019年、自らWEBメディアを始めました。情報発信のみならず、文化とメディアの関係、その歴史的展開、WEBメディアの課題と可能性、メディアリテラシーなどをテーマに、このメディアを運営しています。中日新聞社では、企業や大学向けの文章講座なども担当。現在は、アート情報発信のオウンドメディアの可能性を追究するとともに、アートライティング、広報、ビジネス向けに、文章力向上ための教材、メディアの開発を目指しています。

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