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尾野訓大 / 山田純嗣 / 柄澤健介 アインソフディスパッチ(名古屋)で2024年6月15日-7月6日に開催

AIN SOPH DISPATCH(名古屋) 2024年月6日15日〜7月6日

I want to see the other side of the scenery you saw 3人のの新たな展開

 アインソフディスパッチで作品を発表する3人のアーティストの新たな展開を紹介するグループ展。それぞれが見た景色と新たな挑戦が確認できる興味深い展示である。

尾野訓大 / Kunihiro Ono

 尾野訓大さんは1982年、愛知県岡崎市生まれ。2007年に名古屋芸術大学大学院修了。同市を拠点に制作している。

 真夜中の風景を対象に、4×5の大判カメラで長時間露光する作品を発表。個展のたびに新たな展開を見せてくれる作家である。2020年の個展レビュー2022年の個展レビューも参照。

 尾野さんは、光学装置による長時間露光というシンプルな手法をベースに、人間の視覚を超えた風景を開示する。撮影対象、方法、イメージの表現、展示の在り方などが毎回、実験的である。

 今回の作品では、夜間にカメラを夜空に向け、一晩中、光の集積で真っ白になるまで長時間露光し、透明なポジフィルムをつくっている。

 同じ撮影をランダムに夜空の十数箇所に向けて行い、それらのポジを重ねてスキャンし、布にプリントしたのが作品である。宙空に浮かぶように吊るされ、下から見ると、宇宙に目を向けているような感覚になる。

 重ねられたポジフィルムへの光の干渉によって、布には美しい帯状の模様が写し取られている。宇宙というマクロと、連続するフィルムの微小空隙というミクロが交差して現れる多元的な世界である。

山田純嗣 / Junji Yamada

 山田純嗣さんは1974年、長野県生まれ。1999年、愛知県立芸術大学大学院美術研究科油画専攻修了。

 「山田純嗣展 絵画をめぐって 理想郷と三遠法」(2014年、愛知・一宮市三岸節子記念美術館)などに出品。不忍画廊(東京)、AIN SOPH DISPTCHなどで個展。2021年の個展レビューも参照。

 これまでよく知られた作品は、名画のイメージを石膏やジェッソ、針金、樹脂粘土や木粉粘土などで空間的に制作して、撮影。版を起こして写し取ったレイヤーに銅版による線描を重ねるというもので、自ら「インタリオ・オン・フォト」と名付けた。

 今回は、山田さんが2022年9月から1年間、文化庁新進芸術家海外研修でフィンランド・ユヴァスキュラに滞在したときの成果を発表した新たな展開である。モチーフはフィンランドの森。
 現地で撮影した写真を見ながら、銅板に印刻して、風景を再現するドライポイント。写真製版やフォトエッチングでなく、拡大鏡を装着して、1本のニードルで製作するのである。1日3センチ四方進むのがやっと。はがきサイズで1カ月を要するという。

 写真と見まがうばかりの繊細な世界に驚嘆するほかない。いや、写真を超えた存在感である。筆圧を調整しながら、樹皮の表情や空気感まで表している。作家の類まれな営為によって、神秘性、霊性が立ち現れている。

柄澤健介 / Kensuke Karasawa

 柄澤健介さんは1987年、愛知県生まれ。金沢美術工芸大に進み、2013年、同大学院彫刻専攻を修了。令和3年度豊田文化新人賞受賞。

 2017年に、東京のgallery αMで「鏡と穴 —彫刻と写真の界面 vol.6」に参加。2021年にAIN SOPH DISPATCHで2022年にライツギャラリーで個展を開いている。2023年の国際芸術祭地域展開事業「なめらかでないしぐさ 現代美術 in 西尾」では、スケールの大きな作品で評価を高めた。

 クスノキをチェーンソーで彫り込み、パラフィンワックス(蝋)で空間を埋める。山の尾根や渓谷、湖などの自然の景観、地勢をテーマとした作品は、精妙かつダイナミックな造形性をはらんでいる。

 今回の彫刻は1点だが、新たな展開を感じさせる大作だ。「puddle」(水たまり)と題された長さ2メートル42センチの床置きの作品(2024年)である。

 床に設置する長大な作品は過去にも見たが、今回の作品は浮遊感も感じられ、とても繊細に造形化されている。両端にある形態を結ぶ木のフレームの中ほどがくびれている。このフレームの2箇所に板材がはめこまれ、床と同じグレーに彩色されている。

 常に全体と部分が意識されながら、ある視点からの形態とその裏側、見ている景と見えていない景の関係性が、視線のうつろいによって連続するように立ち現れる。その変化、複雑さの妙こそ、この作家の最大の魅力である。

 最後までお読みいただき、ありがとうございます。(井上昇治)

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文化とメディア—書くこと、伝えることについて

1980年代から、国内外で美術、演劇などを取材し、新聞文化面、専門雑誌などに記事を書いてきました。新聞や「ぴあ」などの情報誌の時代、WEBサイト、SNSの時代を生き、2002年には芸術批評誌を立ち上げ、2019年、自らWEBメディアを始めました。情報発信のみならず、文化とメディアの関係、その歴史的展開、WEBメディアの課題と可能性、メディアリテラシーなどをテーマに、このメディアを運営しています。中日新聞社では、企業や大学向けの文章講座なども担当。現在は、アート情報発信のオウンドメディアの可能性を追究するとともに、アートライティング、広報、ビジネス向けに、文章力向上ための教材、メディアの開発を目指しています。

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