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寺本明志展「冒険と選択」 愛知・清須市はるひ美術館 2022年11月26日-12月25日

清須市はるひ絵画トリエンナーレ アーティストシリーズ

 アーティストシリーズは、清須市はるひ美術館の絵画公募展への出品者から作家を選び、改めて個展形式で取り上げる企画である。

 今回は、2021年4月-6月にあった清須市第10回はるひ絵画トリエンナーレの受賞者の中から、3人を紹介。まずは、審査員賞〈吉澤美香〉を受けた寺本明志さんである。

 岡本秀さん、干場月花さんなど数多くのアーティストが、はるひ美術館で個展を開いてきた。寺本さんは、このシリーズの99人目となる。

寺本明志

寺本明志

 寺本明志さんは1992年、神奈川県生まれ。2017年に、多摩美術大学大学院博士前期課程(修士)絵画専攻油画研究領域を修了した。

「冒険と選択」

 2021年に清須市第10回はるひ絵画トリエンナーレで寺本さんの受賞作品(写真下)を見たとき、不思議な感覚を受けた。

 これは屋外なのか屋内なのか、なんの場面を描いているのか、この男性は何をしているのか、なぜ畑の上に立っているのか等々‥‥。

寺本明志

 家庭菜園のような畑で、上半身裸の若い男性が踊っているように見える。そうかと思えば、置物や絵画があったりしていて、「?」という感じなのである。  

 このように、寺本さんの作品では、それだけなら、ごく普通の日常の場面、物事がいくつもシームレスに組み合わさり、不可思議な光景をつくりだしている。

 作品タイトルはすべて「Patio(中庭)」である。「Patio」を、寺本さんは、屋内と屋外の間にあるニュートラルな場所と定義している。

 美術館によると、寺本さんは、1つの作品の中で、先に描いたものを手がかりに、次に描くものを決める。

寺本明志

 あらかじめ何を描くかを決めて、絵画空間を構成するのではなく、あるものから、あるものへと描く対象を関連づけて、淡々と配置するのだろう。

 もっとも、単にさまざまなものがランダムに寄せ集められるわけではなく、日常的、具体的な場面や物が関連性をもってつながることで、ナチュラルな統一感をもちながら、どこか変な光景が生まれてくる。

 先に描かれたある対象に、新たに別の対象が加えられることで、関係性が生まれる。場面と場面の連鎖的な関係性によって、イメージが生成されると言ってもいい。

寺本明志

 とりわけ、ユニークなのは、屋内、屋外の境界がなく、内と外、近くのもの、遠くのもの、過去や現在、未来、大きなもの、小さなものなど、全ての場面、全ての物が、上下関係なく、対等に置かれていることだ。

 緩やかな関係性によって、異質なものが接しあっている感覚に近い。

 あらゆる物事が等価に存在する空間として、人物、動物、植物、建物、家具、小物などが、本来のロケーションから自由になって、混在している。

 それぞれが一定の全体環境のもとで調和し、多次元的な世界のように入れ子状になりながら、つながっている。

寺本明志

 さらに言えば、細かな筆触を充溢させるように描いているため、高密度な空間がざわめいている印象を与える。

 つまり、画面が過剰で、にぎやかである。あたかも、空間、時間の区別を超えたさまざまなものが関係することによって、そこで何かが起きている感覚、物語にならないイメージの予兆と言っていいものを想起させる。

 「中庭」とは、建物や塀で囲まれ、外の世界から遮断されたプライベイトな空間である。寺本さんは、この空間に、屋内と屋外がつながった中立、対等で自由な絵画空間を見いだした。

寺本明志

 古代ペルシャでは、塀に囲われ、外界を気にせず快適に過ごせる庭園を「パイリダエーザ」と呼んだ。パラダイス(楽園)の語源とされる空間である。

 寺本さんの作品にも、異質なものが自在、対等に結び付くことで、秘密の世界が立ち現れるような楽しさがある。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。(井上昇治)

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文化とメディア—書くこと、伝えることについて

1980年代から、国内外で美術、演劇などを取材し、新聞文化面、専門雑誌などに記事を書いてきました。新聞や「ぴあ」などの情報誌の時代、WEBサイト、SNSの時代を生き、2002年には芸術批評誌を立ち上げ、2019年、自らWEBメディアを始めました。情報発信のみならず、文化とメディアの関係、その歴史的展開、WEBメディアの課題と可能性、メディアリテラシーなどをテーマに、このメディアを運営しています。中日新聞社では、企業や大学向けの文章講座なども担当。現在は、アート情報発信のオウンドメディアの可能性を追究するとともに、アートライティング、広報、ビジネス向けに、文章力向上ための教材、メディアの開発を目指しています。

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