古民家で開催される現代美術展
岐阜県美濃加茂市伊深町の古民家、旧櫻井邸で2023年4月14日〜5月7日、現代美術のグループ展「戯け」が開催されている。金土日(4月14、15、16、21、22、23、28、29、30、5月5、6、7の12日間)のみ開催。無料。
岐阜県出身で、東京藝術大学教授の彫刻家、林武史さんを中心とした作品展である。主催は、東京藝術大学彫刻科第二研究室。
出品者は、 林武史 / 石井琢郎 / 宮原嵩広 / 名倉達了 /川島大幸 / 森山泰地 / 石川洋樹の7人である。
開催時間は10:00-17:00。住所は岐阜県美濃加茂市伊深町 592、旧櫻井邸。場所はこちら。アクセスはこちら。
「戯け」は東海地方の方言で、愚かな振る舞いや、どこかふざけた様子を表すとともに、ネガティブな物事を笑い飛ばすニュアンスを含む言葉である。各作家はそんな含意に沿って作品を制作。古民家の各所に展開した。
会場となる旧櫻井邸は、1914(大正5)年から3年かけ、村長である櫻井福太郎によって建築された木造瓦葺2階建て、約380㎡の民家である。
林武史
林武史さんは1956年、岐阜市生まれ。東京藝術大学大学院美術研究科彫刻専攻修了。展覧会は、2020年の「林武史 石の記憶、泥の声」美濃加茂市民ミュージアム(岐阜)など。
林さんは、石の彫刻家であるが、土、やきものも素材にするようになっている。林さんの中では、土や、土を焼成したやきものも、石と同じ範疇にある。
室内に展示した大理石、陶などの作品もあるが、メインは、建物の裏にある屋外の作品である。石で矩形のフレームが組まれ、中にランダムにやきものが埋められている。
石から土、やきものへと素材を広げることで、大地や地勢、風土、場所の歴史や人間的な営みに関わる新たな風景を生みだしている。
石井琢郎
石井琢郎さんは1979年、長崎県生まれ。2009年、東京藝術大学大学院博士後期課程彫刻研究領域修了、博士(美術)。
石の内側をくり抜き、空洞化した作品や、反対側から彫り進め、石をぺらぺらにして、鏡と組み合わせた作品がある。物質として強い存在感をもっていた石が薄く彫られ、表層と化している。
物質としての石、空洞をもつ虚構としての石、あるいは、レイヤー、イメージとしての石が、石の存在、その表面と裏面、内部と外部、境界など構造の問題につながってくる。
宮原嵩広
宮原嵩広さんは1982年、埼玉県生まれ。2012年、東京藝術大学大学院美術研究科彫刻専攻修士課程修了。
アスファルトによる彫刻は赤く塗られ、ぬるっとした質感。伝統的な和の空間にすっくと立ち、どこかエロティックで、異様な存在感である。先端から水が流れている。どろどろと生々しいほどにキッチュで、同時に御神体のような気高さがある。
陶器便器にピンクに光るチューブ管が垂れ下がり、離れの古い便所の空間を紫色に照らしている。これもまた妖しい光景である。
名倉達了
名倉達了さんは1984年、愛知県新城市(旧・鳳来町)出身。硯職人の6代目として生まれた。2011年、東京藝術大学大学院美術研究科彫刻専攻修了。
2018-19年、文化庁新進芸術家海外研修制度で英国に滞在した。また、2021年、新城市で美術家の鈴木孝幸さんが中心となって開いている旧・門谷小学校でのアート展に参加した。
御影石、木材によって、精緻なインスタレーションが構成されている。水平に、あるいは垂直にフレームが組まれ、窓外からの白っぽい光に包まれている。穏やかな光と陰影、空間の余白を引き立たせた展示である。
ガラス瓶の水も置かれている。瓶の中に密閉され、展示空間と隔たった水、蓋が開き、空間とつながった水、石の粉が沈殿した水など、さまざまな取り合わせによって、ささやかな質の変転を見せている。
別の部屋では、流木、石、木材、枝、葉、糸がわずかな接点をもって、縁を結び、窓から差し込む光と戯れるようなインスタレーションを展開した。
川島大幸
川島大幸さんは1987年、静岡県生まれ。2016年、東京藝術大学大学院美術研究科博士後期課程美術専攻彫刻研究領域修了、博士(美術)。
彫刻と映像の領域を横断しながら、認識に関わる作品を発表している。アーティストコレクティブ「GAZO」を服部公太郎さん、植田工さん、鈴木啓太さんと結成した。
今回は、監視カメラでリアルタイムに撮影した4つの映像をつなぎ、廊下の突き当たりのモニターに画像を出力している。
もとの映像は、隣の和室で、旧櫻井邸に残っていた4つの陶器の口の部分を4分の1ずつ撮影したものである。つまり、別々の陶器の口の円弧が合わさって、円ができている。いわば、陶器の破片と破片を繋ぎ合わせた「呼び継ぎ」によってつくられた円相である。
森山泰地
森山泰地さんは1988年、東京都生まれ。2016年、東京藝術大学大学院美術研究科修士課程彫刻専攻修了。
主に、自然の中でのアースワーク的な作品や、自然物を用いたインスタレーションを制作している。アーティストユニット「鯰」のメンバーとしても活動している。
今回は、民家の荒れた庭と向き合い、詩をつくるように整えた。庭と和室が対話をするように構成されている。
庭と畳の上の石の鉢には、それぞれ金魚が1匹ずつ泳いでいる。縁側の一対のコップの水、吊るされた瓶から床下に落ちる水滴、塀にしつらえた鏡に映った水路の流れ。対称性と水の循環が感じられる展示である。
石川洋樹
石川洋樹さんは1987年、茨城県生まれ。2014年、東京芸術大学大学院美術研究科彫刻専攻修了。2019年、英国ロンドン大学ゴールドスミスMFA修了。2017-2020年、在外研修員としてロンドンに滞在した(野村財団 / 2017、ポーラ美術振興財団 / 2019-2020)。
今回の作品は、会場に入ってすぐの空間や家財道具の積まれた部屋で、ジャンク感のある接触音、摩擦音を流した、サウンドインスタレーションのような展示である。
石川さんによると、量子力学では、原子核の周りの電子の反発作用によって、原子と原子は、その間に隙間があって、相互に接触してない。つまり、彫刻も原子レベルでは隙間だらけである。
詰まっている、あるいは接しているものが、単位を落として、ミクロレベルで見ると、隙間をもっている。では、接触していないのに、なぜ接触音、摩擦音がするのか。そんな問いかけである。