アートラボあいち(名古屋市中区) 2020年11月27日〜12月20 日
名古屋芸術大学が2021年度から開設する現代アートコースの教員ら10人の仕事を紹介する「task」展が、名古屋市内の アートラボあいちで開かれている。
同大学では、現代アートコース創設に向け、講師陣を一新。 国際的に活躍するアーティストや、キュレーターなどが教鞭をとるようになったという。
参加したのは、青田真也、青木一将、秋吉風人、大田黒衣美、田村友一郎、西田雅希、三宅砂織、本山ゆかり、吉田有里、渡辺英司の各氏。
西田雅希
西田雅希さんは福岡県生まれ。国内外で批評活動と展覧会の企画、アートプロジェクトのマネジメントなどに取り組む。英国ロンドンで10年間、美術大学、美術館、ギャラリー、コレクター事務所などで、アートエデュケーション、キュラトリアルの仕事に従事。あいちトリエンナーレ2016のチームへの参加を機に、日本に拠点を移した。
吉田有里
吉田有里さんは1982年、東京都生まれ。横浜のBankART1929、あいちトリエンナーレ2010、2013に関わり、アートラボあいちの立ち上げにも参加。2015年以降は、名古屋港エリアでのアートプログラム「Minatomachi Art Table,Nagoya[MAT,Nagoya]」や、フェスティバル「アッセンブリッジ・ナゴヤ」の企画・運営に携わっている。
青木一将
青木一将さんは1984年、三重県生まれ。現代美術のインストーラーのチーム「ミラクルファクトリー」として、作品を効果的に見せる展示設営、アーティストの構想の具現化などの活動を展開する。あいちトリエンナーレ2010のプレイベント(2009年)が現在の活動を始めるきっかけとなった。
三宅砂織
三宅砂織さんは1975年、岐阜県生まれ。既成の写真を基に透明フィルムに描いたドローイングの影を印画紙に焼き付けるフォトグラムのほか、ポジネガを反転させた映像作品を制作する。
2019年、東京都現代美術館で開かれた「MOTアニュアル2019 Echo after Echo:仮の声、新しい影」展などに参加。2021年2月13日~3月28日、岐阜県美術館である「アーティスト・イン・ミュージアム AiM Vol.9 三宅砂織」では、 岐阜の風土や歴史、文化と関わり、その過程で出合った素材を作品化する。
ビデオ作品《Garden(Potsdam)》(49分)は、ドイツ・ポツダムの公園を撮影したポジネガ反転のモノクロ映像で、見慣れないイメージが胸騒ぎのような感覚を呼び覚ます。
ビデオ映像を基にしたことは分かるものの、全体的に異質で曖昧なイメージに変換されている。スロー再生によるスチルとムーヴィーが混在した感覚とともに、噴水や池の波紋など水の動きが黒く不穏なものへと変調される一方、建物など白い背景は階調がなくなり、潰れた感じに見える。
ナチス政権がプロパガンダとして利用したベルリン五輪(1936年)に出場し、東京五輪(1964年)の運営にも関わった元体操選手の日本人男性の写真、新聞記事の切り抜きなどの遺品類と出合った三宅さんが、男性が1936年に撮ったポツダムの庭園への足跡をたどってカメラを向けた映像が基になった。
戦前から敗戦、戦後を生きた1個人の私的な記録から派生した映像が、時間や空間を超えて抱え込む連鎖、変換、歴史との交差によって、見る者のさまざまなイメージに接続される。
三宅砂織さんのWEBサイトでは、この作品について紹介するPDFの冊子を公開。3本の批評、論考も掲載されている。
本山ゆかり
本山ゆかりさんは1992年、愛知県生まれ。絵画を構成する要素を分解しつつ、素材、方法をずらして別の方法で再構築するという意味でフォーマリスティックな視点をもつ作家だが、作品はユーモアもあって親しみやすい。
愛知県美術館 第3期コレクション展(2020年9月19日 ~ 12月6日)にも出品した。
「画用紙」シリーズは、ガラス絵のように裏側からアクリルボードに描いた。
布のシリーズ《Ghost in the Cloth》では、2つの異なる色の布にまたがるようにチューリップを刺繍。地、図とは異なる皺の寄った布素材のかすかな起伏の中から、イメージが可視/不可視の間を彷徨うように浮かび上がる。
大田黒衣美
大田黒衣美さんは1980年、福岡県生まれ。身近な物を素材に作品を制作している。今回は、チューインガムを素材に、さまざまなポーズをとる人の形を作品にした。
写真作品は、猫の背中の上にガムを載せて撮影している。
田村友一郎
田村友一郎さんは1977年、富山県生まれ。映像とともに、関係する既存の写真、アメコミ、オブジェクトなどを組み合わせたインスタレーションである。
2019年、ニュージーランド・ニュープリマスの美術館で発表した作品《Milky Mountain/裏返りの山》を再構成した。
富士山と同じ形をしているニュープリマスのタラナキ山を「裏返りの山」として、それに連なるエピソード素材で構成されている。
山の麓で撮影があったハリウッド映画「ラストサムライ」や、ニュープリマスと姉妹都市の静岡県三島市の資料などとともに、《Milky Mountain/裏返りの山》の姉妹作品のキーパーソンで「ラストサムライ」からも連想される三島由紀夫に関わる資料なども加えた。
秋吉風人
秋吉風人さんは1977年、大阪府生まれ。金色だけで抽象絵画のように空間を描く、あるいは、油絵具を積み上げて台座に載せ、絵画と彫刻のあわいを問う、絵画を制作する道具を複層的に絵画面で出合わせることを自己目的化するなど、絵画概念を問い直す作品を制作している。
今回は、2枚の支持体を継ぎ合わせて描き、再度、分解した半分の絵画を、別の半分の絵画とつないで、もう一度、1つの絵画にする連作である。
シンプルな発想ながら、そこには、絵画の解体と再構築、偶然と必然の主題がはらまれている。
青田真也
青田真也さんは1982年、大阪府生まれ。日用品などをやすりで削ることで、人間と物との関係、あるいは物質、その価値を問い直す作品を展開する。
ミニマルで、コンセプチュアルな作品。表層を削ることで、見慣れたものが一変し、物にまとわりついている概念、情報が喪失する。
今回は、チラシやフライヤー、DMなどを削って、木製テーブルに配している。表面にかすかに元の情報の色彩を残した矩形が整然と並び、美的感性に作用する。
「愛知県美術館 若手アーティストの購入作品公開の第3弾 1月22日-3月13日」も参照。
吉田有里さん同様、名古屋港エリアのアートプログラムやフェスティバルの共同ディレクターも務めている。
渡辺英司
渡辺英司さんは1961年、愛知県生まれ。名古屋の旧・大和生命ビルにケンジタキギャラリーがあった1990年代中頃から作品を見ている作家である。
2020年3、4月にケンジタキギャラリーであった「渡辺英司展 Merman/おとこの人魚」の記事、渡辺英司さんが、羊かんを素材に魚のアンコウ親子を作った展覧会の記事「なごや寺町アートプロジェクト『しかしかしか』『羊かん彫刻⁉︎』」も参照してほしい。
日常の事物にわずかに手を加えることで、ユーモアのある詩的、哲学的な作品を展開している。メディアを特定しないこと自体が、渡辺さんのアイデンティティーになっている。
紙粘土のパッケージを開けずに作ったトルソー、黒いビニール袋に微細な穴を開けた夜空の星屑、山頂の岩に記された恋人のサインに自分の名前を加えた写真など、渡辺英司さんらしい作品が展示された。