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片柳拓子 FLOW(名古屋)で6月4-19日

PHOTO GALLERY FLOW NAGOYA(名古屋) 2022年6月4〜19日

片柳拓子

 片柳拓子さんは東京都出身。文化女子大学(現:文化学園大学)造形学部生活造形学科工芸コース金工専攻卒業。

 その後、以前、写真評論家で作品も発表しているタカザワケンジさんらが講師を務めた東京藝術学舎や、写真家の金村修さんらのワークショップなどで写真を学んだ。

 2021年に東京のIG Photo Galleryで初個展を開催。今回は3回目の個展である。名古屋では初めて作品を展示する。

Boundary

片柳拓子

  片柳さんの作品の展開には、なにげないスナップがいかに芸術写真になりうるかという、ベーシックな事例としてのプロセスがあると言えるかもしれない。

 ほとんどは、東京など各地の風景の断片が直感的に撮影されているが、そこに風景の切り取り方、明暗、物のフォルムへの意識、構図などの総体として、「作品でない写真」から「作品としての写真」への確かな転移があるのである。

 名古屋の都市の断片もある。いずれも撮影箇所が示されているわけではなく、匿名の場所である。そこに写されているのは、すべて都市の風景の中の具体的な断片…。

 写真は、すべて同じA4サイズで、上下二段になってギャラリーの壁をぐるりと一周している。すべては等価である。なんらかの構成の意識、あるいは無意識は働いているだろうが、それが強く感じられるわけではない。

片柳拓子

 都市のかけらのような、なんでもないイメージは、明確な脈絡がなく、何を切り取ったか、その選択の理由、並び順の狙いも分からない。確信的なものがあるわけではなく、見る人によって何が喚起されるかも、ほとんど任されているのだろう。

 ただ、そうは言っても、光学装置であるカメラの写真が写してしまったものは、カメラをもつ片柳さんがまなざし、意識、無意識、身体性を駆動させたところにある。

 筆者が感じたのは、普段は意識されないような、つながった均質な世界と、それが写真として切り取られ、ひんやりとした平滑なイメージへと圧縮される中で、かろうじて訴えてくるような都市の手触りである。 

 それは、不穏さ、不安、寂しさと言ってもいいかもしれない。

 片柳さんは、これまでの個展などで、タイトルを《possession》(占有、憑依)、《impersonation》(なりすまし)などとしてきた。

片柳拓子

 今回の《boundary》(境界)と合わせると、一貫して、都市の片隅に「在る」塊としてのモノ、空間を切り取り、そのモノがこの世界の場を占めること、形と空間、モノとモノの境界、相互関係に、鋭敏な感覚で自らの身体を寄せていることがわかる。

 その意味で、片柳さんがなんでもない場所、モノを撮影し、ほとんどトリミングせずに作品にしているということは象徴的である。

 そうした片柳さんの、ほとんど無意識と言っていいような撮影行為は、都市の無意識と言い換えることができる。

 都市の片隅にあるモノを片柳さんが選びとったように見えて、その実、片柳さんに撮られるためにモノのほうからやってきた、モノがそのように存在している、のである。

片柳拓子

 それは、都市の片隅のモノというほかなく、片柳さんに選び取られた明確な理由も意味も表象性もなく、それゆえに、モノのほうから、片柳さんに撮影されるように自らやってきたとしか思えないモノたちである。

 片柳さんの写真は、積極的に何かを語ろうとしない。むしろ、意味や解釈、表現を避けている。鑑賞者にこびることなく、無関心である。

 ただ言えるのは、それが都市の片隅のモノであって、それだけということにおいて、撮影というプロセスをたどってしか生成されないイメージである。

 逆説的に、そこにおいてこそ「作品としての写真」がある。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。(井上昇治)

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文化とメディア—書くこと、伝えることについて

1980年代から、国内外で美術、演劇などを取材し、新聞文化面、専門雑誌などに記事を書いてきました。新聞や「ぴあ」などの情報誌の時代、WEBサイト、SNSの時代を生き、2002年には芸術批評誌を立ち上げ、2019年、自らWEBメディアを始めました。情報発信のみならず、文化とメディアの関係、その歴史的展開、WEBメディアの課題と可能性、メディアリテラシーなどをテーマに、このメディアを運営しています。中日新聞社では、企業や大学向けの文章講座なども担当。現在は、アート情報発信のオウンドメディアの可能性を追究するとともに、アートライティング、広報、ビジネス向けに、文章力向上ための教材、メディアの開発を目指しています。

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