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竹中美幸展 物語はつづく 岐阜・大垣市スイトピアセンター アートギャラリーで2023年2月4日-3月21日 

竹中美幸

 岐阜県出身の現代美術家、竹中美幸さんの個展「物語はつづく」が岐阜県の大垣市スイトピアセンターアートギャラリーで開かれている。入場無料。

 スイトピアセンターの開設30周年記念事業。広い展示空間に近作、新作を配した見応えのある展示である。

 竹中さんは1976年、岐阜県大垣市生まれ。加納高校美術科卒業。多摩美術大学美術学部絵画学科油画専攻卒業、同大学院美術研究科絵画専攻修了。東京を拠点に活動している。

竹中美幸

 2012年、シェル美術賞・島敦彦審査員奨励賞を受賞。「VOCA展2012 -新しい平面の作家たち- 上野の森美術館」、奥能登国際芸術祭2020+(スズシアターミュージアム/石川)などにも参加している。

 「アート・アワード・イン・ザ・キューブ(ART AWARD IN THE CUBE)2020 清流の国ぎふ芸術祭」にも参加。過去に過ごした場所や⽇常、旅先で採集した⾳を音符にし、譜面を焼き付けた映像用フィルムと光によるインスタレーションを出品し、篠原資明賞を受けた。

 首都圏での個展、グループ展が多く、名古屋では、2012年、2013年にギャラリーヴァルールで個展を開いている。

竹中美幸

 幼少期、既に透明セロハンに魅せられた。水彩、アクリル樹脂に加え、映画フィルムの現像所に勤務した経験から、2013年頃からは、映画用フィルムを素材に使っている。

 透明な素材を用いて、光や影を生かした平面や立体、インスタレーションを発表している。透過するフラジャイルな支持体のレイヤーを展開させ、揺れる光と影、イメージ、色彩が織りなす空間によって、記憶とその時間、物語を紡いでいる。

物語はつづく 岐阜・大垣市スイトピアセンター

 さまざまな展開を見せながらも、一貫するのは、透過する素材によるレイヤー状の空間に光と影、イメージや色彩が揺らぐ多元的な世界である。

 

竹中美幸

 「空白のドーム」(2023年)は、タイトルどおりドーム型の立体である。

 スイトピアセンターのドーム型スクリーンで、デジタルプロジェクター導入前に、投影されていた70mmポジフィルムを作品として再生しているのがユニークである。 

 古い70mmポジフィルムに映っていた地球のイメージを35mm映像用ポジに焼き直して、自作のドームに投影するなど、かつての映像や光学装置、ひいては、スイトピアセンターの歴史、記憶へとさかのぼるような展示になっている。 

竹中美幸

 その意味では、メディア考古学的な展示ともいえるし、地域性という大垣出身の竹中さんならではのまなざしもある。

 デジタル機器が進化する中で、素朴なドームに映るフィルムや影、透けて見える内部の装置が懐かしさと親しみを抱かせる、温かな作品である。

竹中美幸

 「物の語り/再び廻る」(2022/2023年)は、35mm映像用ポジフィルム、集光アクリル板など、さまざまな素材を使ったポリフォニックなインスタレーションである。  

 半透明な壁で区切られた空間は部屋のようで、レイヤーによって成り立っている。映像用フィルムには、コロナ禍によって閉店に追いやられた店の椅子の像が焼き付けられている。

 店の椅子は、そこに集った人たちの存在、つまり、コロナによって断絶した人々の出会い、交わりの象徴であろう。つまりは、「失われた出会いの時」の残像である。

 部屋の中では、赤ちゃん用のベッドメリーのようなものが回転している。かつて、コロナによって休止となった公園遊具のメタファーのようである。

竹中美幸

 「終わらぬ旅」(2023年)は、大垣市が、松尾芭蕉(1644〜1694年)が俳諧紀行「おくのほそ道」の旅を終えた地であることにちなんで制作した大規模なインスタレーション作品である。

 作品は、展示室の三方の展示ケースに配置され、展示室を巡っている。松尾芭蕉を敬愛していた与謝蕪村(1716~83年)が制作した「奥の細道図巻」がモチーフである。美術家らしく、竹中さんは、蕪村の絵に、より関心を持った。

 蕪村は、芭蕉の「おくのほそ道」の足跡をたどり、文章を書写し、挿絵を添えた図巻や屛風を制作している。

竹中美幸

 竹中さんは、芭蕉や蕪村のように足跡をたどりつつ、彼らと同じ場所に立ち、彼らが見ることのなかった現在の風景とともに作品化した。

 現代の移動手段、スマホによる多種多様なインターネット情報などによって、更新された「最新の旅」である。

 展示は、竹中さん自身が旅の過程で撮影した写真や、さまざまな資料で構成し、芭蕉や蕪村の道のりを光のラインで示している。つまり、積層する過去と現在の対話である。

竹中美幸

 過去から現在へと、長い時間を超えて、それぞれの場所が内在する、変わらないもの、見えるものと見えないもの、現れたものと消えたものが堆積したような、豊かな時間と空間の感覚がしみこんでくる。

 芭蕉の5カ月間にも及ぶ旅は、総距離で2400㌔にもなる。そのすべては無理でも、何カ所かでも訪れてみたいと思わせる作品である。 

 「桜の下の跡形」(2023年)は、映像インスタレーション作品である。芭蕉は「蛤のふたみにわかれ行く秋ぞ」と詠み、大垣の水門川の船町港から桑名へ舟で下り、「おくのほそ道」 の旅を終えている。 

竹中美幸

 映像は、その水門川で、昼と夜に橋の上から、川面の桜の花びらや、水面のリフレクションを撮影している。

 そのゆったりとした流れ、静かにうつろう水面に、旅と人生、過去と現在、未来、そして無常観のようなものが感じられる映像である。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。(井上昇治)

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文化とメディア—書くこと、伝えることについて

1980年代から、国内外で美術、演劇などを取材し、新聞文化面、専門雑誌などに記事を書いてきました。新聞や「ぴあ」などの情報誌の時代、WEBサイト、SNSの時代を生き、2002年には芸術批評誌を立ち上げ、2019年、自らWEBメディアを始めました。情報発信のみならず、文化とメディアの関係、その歴史的展開、WEBメディアの課題と可能性、メディアリテラシーなどをテーマに、このメディアを運営しています。中日新聞社では、企業や大学向けの文章講座なども担当。現在は、アート情報発信のオウンドメディアの可能性を追究するとともに、アートライティング、広報、ビジネス向けに、文章力向上ための教材、メディアの開発を目指しています。

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