ギャラリー目黒陶芸館(三重県四日市市) 2022年10月16〜23日
武村和紀
武村和紀さんは1986年、岐阜県中津川市生まれ。 2011年、愛知教育大学大学院教育学研究科修了。 愛知教育大では、中島晴美さんから陶芸を学び、現在は、京都・大原を制作拠点としている。
公募展への出品を重ねた後、関西のギャラリーなどで作品を発表。目黒陶芸館では、2016、2019年に続いて3回目の個展となる。
陶芸は、素材を土に限定するというだけでも、制約のあるジャンルである。だが、素材や制作プロセスの縛り、ルールがあるからこそ面白い、その制約の中にこそ新たな創造性が胚胎される—そんなことを改めて思った展示である。
目黒陶芸館 2022年
というのも、武村さんの制作も制約のあるものだからである。
武村さんは手びねりで立体を立ち上げていくが、その際、半円球の石膏型を使い、それを支えとして、型の内側で作品を作っていく。だから、外のラインを見ると、おおよそ半球体の形状が見て取れる。
武村さんによると、石膏型を湿らすことで、適度な保湿状態を保ちながら、また半球状のアウトラインを支えながら造形することができる。ボウルのような半球なので、器の形も意識されているだろう。
造形的にユニークだと思うのは、粘土を下から上へと立ち上げていくというより、外から内へと作っていく点だ。そして、内側にいくほど、空間が疎から密へとなっていくので、より造形上の制約が多い。
つまり、外に形を延ばすのではなく、狭いところに入っていく。内側にいくほど空間が狭く、構造が密になるので、作りにくくなる。それをあえて選んで、土で構築する。
設計図があって、それに従って構築するのではない。そのときの空間の疎密や、それまで作ってきた線、面との関係性の中で、手びねりで土をつなげていく。そこに、土ゆえの、手技ゆえの動き、揺らぎが生じる。
武村さんの作品は、しばしば「建築的」といわれるそうだ。それは、外から内へと作っていく中で、幾何学な骨組み構造が現れてくるからだろうが、それは、設計図通りに組んだものではなく、そのとき、そのときに対応したものである。
蜂の巣のようなハニカム構造を思い起こさせる形態である。
内にいくほど空間が狭まる上に、焼成時の収縮や割れ、土の重みなどの課題を克服する必要がある。武村さんの作品は、そうしたことへの対応の結果として生まれてくるものである。
土の垂れ、亀裂を考えると、フラットな部分や直線を減らし、「角」で形を支える必要があるが、補強しすぎると、形の面白みがなくなり、重量も増えすぎる。
武村さんが、土が切れないようにナイロンファイバーを混ぜているのも、それだけ繊細な形態、構造だからである。
素材と手技、思考とのかけひきの中から生まれる偶然性と必然性を併せ持った形態。それは、武村さんがあらかじめ用意したイメージによる形態でも、建築的な設計図に基づく形態でもない。
あくまで土素材と向き合い、半球の外から内へと向かう土の連鎖、構築の理路に基づくものである。
インタビューの中で、武村さんが放った言葉で印象深い1つが「理由のある形は美しい」というものである。
外から内へと狭くなる空間、密になる構造の中で、空間を探して新芽が出るように土が増殖する。
精緻な構造形態と、土素材、手技による動き、揺らぎの間に緊張感が育まれたときに、無機質なやきものの中に、生命感のダイナミズムが生まれるだろう。武村さんは、構造と揺らぎのせめぎあい、シナジーの美しさを目指している。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。(井上昇治)