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髙田裕大展 清須市はるひ美術館(愛知)で2023年12月12日-24年1月8日に開催

 清洲市はるひ美術館のアーティストシリーズは、同市はるひ絵画トリエンナーレの受賞者を選び、個展形式で取り上げる企画。髙田さんは、清須市第10回はるひ絵画トリエンナーレで審査員賞〈杉戸洋〉を受けている。

 髙田裕大さんは1985年、富山県高岡市生まれ。主な個展に2021年「測量の日々」gallery N(愛知)、2020年「ここは地中」ニュースペース パ(東京)、「髙田裕大のドローイング展その二」musico(愛知)、2018年「火」gallery N 神田社宅(東京)がある。

 主なグループ展は、2023年「川村元紀と髙田裕大展」gallery N(愛知)、「萬均ショップ パ」ニュースペース パ(東京)、2022年「VOCA展2022現代美術の展望-新しい平面の作家たち―」上野の森美術館(東京)、2018年「足助ゴエンナーレ 足助的芸術界隈」豊田市足助町古い町並み一帯(愛知)、2017年「はりこ植物園」企画・展示 See Saw gallery +hibit(愛知)など。

髙田裕大

 髙田さんは、土地家屋調査士事務所で土地の測量の仕事をしながら、作品を制作している。一般的な絵画のモチーフと縁遠い「土地測量」を制作に直接に持ち込んでいることが新鮮である。

 土地の形状や大きさを明確にする測量は、土地売買や家の新築、相続などの際に依頼を受け、登記申請に必要な書類をつくる裏方的な仕事で、なんとなくのイメージはあっても、当事者でないと分からないことが多い。髙田さんは、そうした仕事の中身を絵画などの作品に反映させている。

 田畑などのほか、何十年も人が入ることのなかった山や原野のような土地に足を踏み入れることもあるらしく、そうした通常では経験できない世界を描くこと自体がとてもユニークである。

 さまざまな過去の資料と照合しながらの現地調査、例えば、樹木の伐採や穴掘りなどの作業が独特で、草木の多い荒れた土地へ鎌を手に分け入るのは探検に近い感覚だという。

髙田裕大

 その場所に入った者にしか分からない風景や身体感覚、さまざまな生き物との遭遇が日本画の岩絵具によって、どこかコミカルに描かれている。

 筆者が、まず関心を持ったのは「美術」と「労働」の接近で、日本では主に20世紀前半から中頃にあった、絵画における「労働」のテーマ化が、全く形を変えて反復されていることである。今、自分の労働を絵画のモチーフにする人がどれほどいるだろう。

 日本では、戦前のプロレタリア美術運動や、戦後に政治的運動との結びつきの中で展開したルポルタージュ絵画、あるいは、山本作兵衛の炭鉱記録画などがあるが、髙田さんの作品では、土地測量という労働が絵画になっている。

 炭鉱記録画にユーモアのセンスが漂うのを別とすれば、戦前から戦後の労働をテーマとした作品が、社会主義リアリズムとの関係や、土地闘争、労働争議なども絡んで暗澹とした雰囲気なのに対して、髙田さんの作品は、カラッと明るい。

髙田裕大

 髙田さんの作品に政治性はなく、漫画的なタッチで描かれた画面からは、ユーモアすら感じられる。現場的な労働の雰囲気を伝える作品が独特のテイストを放っているのは確かだ。

 制作に関して、現場で写真を撮って、それを基に描くことはない。髙田さんは、まず、ドローイングを描いて、できるだけ生々しい現場の様子をそのまま水彩絵具やクレヨン、クレパスなどで描出する。

 ドローイングの段階で既に漫画的な絵だが、逆説的に、このデフォルメされた風景や作業の場面などに、現場の感覚がダイレクトに反映されているのではないだろうか。

髙田裕大

 ドローインから絵画に展開させる際に、アタマの中のイメージと現場でのさまざまな身体感覚、そのときの心情などが総動員されて描かれる。描画は漫画風で、やたら脚が長いなどプロポーションが極端だったり、体が背の高い植物に覆われていたりと、不思議な絵だが、そこに作家の「リアル」があるのだろう。

 人物は、ポーズを取るように立って、鑑賞者に向かって正対している。髙田さんによると、測量の仕事は2人1組でするのが普通で、作業中の、相手を見るという関係から、画中の人物が鑑賞者に正対する絵になるのだという。

 こうした測量作業中の人物を描いた作品のほか、測量後に図面をつくるときのXY座標の数値を使って、パソコンで制作した抽象画も展示されている。

髙田裕大

 図面製作のためのCADによって、パソコンの地図上で、清須市はるひ美術館や、東京の上野公園の周辺をモチーフにして描いているが、空から見下ろした抽象画のようなイメージには、ナスカの地上絵のような雰囲気があって、とても面白い。

 地面を掘る作業からなのか、土の中をイメージした作品もある。

 自分の目を中心とした地上の世界だけでなく、測量の数値で描いた、空の上からの俯瞰的な視点、あるいは、地中の視点もあって、眼差しの変化が多様な作品を生みだしているのが興味深い。

 生活のための労働と表現活動が素直に結ばれ、作家の感性とさまざまなアイデアによって、測量という労働がユニークに捉えられている。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。(井上昇治)

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文化とメディア—書くこと、伝えることについて

1980年代から、国内外で美術、演劇などを取材し、新聞文化面、専門雑誌などに記事を書いてきました。新聞や「ぴあ」などの情報誌の時代、WEBサイト、SNSの時代を生き、2002年には芸術批評誌を立ち上げ、2019年、自らWEBメディアを始めました。情報発信のみならず、文化とメディアの関係、その歴史的展開、WEBメディアの課題と可能性、メディアリテラシーなどをテーマに、このメディアを運営しています。中日新聞社では、企業や大学向けの文章講座なども担当。現在は、アート情報発信のオウンドメディアの可能性を追究するとともに、アートライティング、広報、ビジネス向けに、文章力向上ための教材、メディアの開発を目指しています。

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