ギャラリーヴァルール(名古屋) 2022年11月29日〜12月24日
鈴木雅明
鈴木雅明さんは1981年、愛知県生まれ。名古屋造形芸術大学洋画コースを卒業後、愛知県立芸術大学大学院美術研究科油画専攻を修了した。
名古屋市に隣接する愛知県尾張旭市を拠点に制作している。
闇の中で明かりがにじむような都市の夜景を、自身が撮影した写真を基に描いている。光と影、物と物が溶け合うような光景を描き、2005年にシェル美術賞グランプリを受賞した。
順調にいくかと思えたが、その後、スランプに陥った。次の展開を探る中で、2010、2011年頃から、長く模索が続いた。その中で生まれたのが、2019年ごろから描くようになった「机上の光」シリーズである。
ライトの明かりに照らされた、一風変わった静物画のような作品である。
アトリエに暗室をつくり、暗闇の中、天井のダクトレールに固定した1つの光源から光を投射したテーブル上に針金、球体、ブロック等を置いて描いた作品である。
詳細は、2021年にガレリア フィナルテ(名古屋)で開いた個展レビューを参照してほしい。「夜景」と「机上の光」の両シリーズは密接に関わっていて、ともに、光と影のきわを描いている。
「机上の光」 を描くようになった2019年ごろから、鈴木さんは、再び夜景シリーズを手がけるようになった。最初は、年に数点ほどだったが、2021年から本格的に再開した。今回は、新たな展開を含め、その夜景シリーズに絞った展示である。
Artificial Light 2022年
鈴木さんは「机上の光」を経て、自分の中にある光への興味を再確認した。もっとも、当初の学生時代は、光というより、にじむように境界をぼかす描写の仕方に関心があった。
大学の卒業制作で描いた262×194センチの巨大な絵画は、アスファルトをモチーフに、濃いグレーでオールオーバーな画面づくりをした。
アスファルト表面の繊細な明暗の境界をグラーデーションでぼかして描くのに集中した。そうした描き方ができる次なるモチーフとして、光が選ばれたのである。
夜景シリーズでは、必ず、点景としての人間が描かれた。最初は、夜の街に立つ《自分自身》がセンサーサイトに浮かび上がる場面を写真で撮ってもらって、それを基に描いた。甘いピントで撮られた写真では、境界がぼやけ、それが存在のテーマにも通じた。
その意味では、夜景シリーズそのものが「自画像」という意識から出発しているという言い方もできる。
その後、このシリーズでは、自分の姿でなく、夜の街の中にたたずむ女性が描かれ、さらに今回は、人間ではなく、猫や鳥などになっている。
夜景シリーズは、光が点在する夜の都市空間に、鈴木さんがいるという自画像なのだ。鈴木さんが、女性や猫、鳥に置き換わっても、それは、鈴木さん自身の視点の反映の役割を担っている。
夜景のイメージは、寂寥感や感傷、過ぎ去った過去への郷愁などと結び付きやすいが、鈴木さんは、そうした抒情性を表現したいわけではない。
つまり、少し引いた醒めた眼差しなのだろう。もともと、鈴木さんは、光と影の境界のぼやけたような存在のあり方をどう描くかに引き寄せられたのであって、夜景の抒情的場面を描きたかったわけではない。
世界が存在することを、境界があいまいになった光、影を描くことで、探究しているのである。
世界を光と影のあいまいな境界の連続として捉えること。そうしたテーマ性で見たとき、「夜景」と「机上の光」がとても近い関係にあることが理解できると思う。
そして、いずれも闇の中で人工的な光がきらめいている。「机上の光」の静物がドラマチックで擬人的に見えるのに対し、「夜景」シリーズの空間はどこか静物的である。
鈴木さんが、そこに「自画像」として、人や猫、鳥の気配を配したのは、人工的、物理的な光と影だけでは、物足りなかったということもあるのだろう。
人も、猫も鳥も、人工的な光の中の、命の温かさの象徴である。まさに、この夜景は、世界を見ている生身の鈴木さんの「自画像」なのである。
夜景の中で、切り絵のように描かれた人物や猫、鳥は、空間に埋没することなく、この世界を深く対話をしているようである。
そうした人物や猫、鳥は、見慣れた日常世界を、社会化された既存の意味や解釈、情報でない新しい目で見つめ直す鈴木さんそのものである。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。(井上昇治)