STANDING PINE(名古屋) 2021年1月16〜30日
鈴木広行さんの個展「Time Layers」が、 名古屋のSTANDING PINEで開催されている。展覧会の企画は、SHUMOKU GALLERYとなる。
鈴木広行さんは1950年、愛知県刈谷市生まれ。旭丘高校を卒業後に上京。篠田守男さん、三木富雄さんの助手を務めた後の1973年に渡仏し、版画技法を学んだ。 パリでは、松谷武判、若林奮などのアーティストとも交流、 77年に帰国した。
当時は、格子をモチーフとした銅版画、金属を腐食させたレリーフなどを制作。各地の版画ビエンナーレに出品し、名古屋のギャラリーたかぎをメインギャラリーに作品を発表した。
1982年には渡米。荒川修作のスタジオで1年以上、版画制作に協力している。
後で詳述するが、帰国した後の1980年代後半から1990年代前半には、1点1点に膨大な時間を要するドローイングを集中的に制作。続いて、2000年ごろからは、一転、一発勝負で描き、身体性、即興性を感じさせるモノタイプに取り組んだ。
ギャラリーたかぎ以外にも、コオジオグラギャラリー(名古屋)、ギャラリーアパ(名古屋)、ギャラリーOH(愛知県一宮市)など、名古屋近辺の画廊で長く作品を発表。筆者も折に触れ、取材してきた。
表現手法が変化しつつも一貫しているのは、色彩や線を切り詰めた空間と時間性、精神性である。
Hiroyuki SUZUKI
今回発表するのは、2019、2020年に制作した「Time Layers」。従来の紙に描いたドローイングではなく、キャンバスを支持体とした新しい絵画のシリーズの37点である。
鈴木さんというと、銅版画、モノタイプの印象が強いが、米国ニューヨークから帰国した後、1985年から1995年にかけ、ドローイングの連作「Time Layers」200点ほどを集中的に制作している。
「時間の層」というタイトルどおり、紙に顔料、コンテ、鉛筆などを塗り重ね、 気の遠くなるような時間、集中力を注ぎ込んで、マチエールと空間性を追究した。作品は、2016年にSHUMOKU GALLERYで発表されている。
その延長にある今回の絵画は、支持体を紙からキャンバスに変え、黒い鉛筆を中心に白、金などの色彩をわずかに加え、時間を積み重ねている。
最初に、鉛筆でキャンバスの微細な織り目を1つ1つ丁寧に塗り、黒鉛を刷り込む。深淵なる黒である。これを地というべきか、どうか。確かに、黒色が広がるが、織り目に塗られた黒の集積である。
これだけでも相当な時間を要するが、ひととおりキャンバスを鉛筆で埋めたら、さらに最低10回ほど繰り返す。
まさに、時間のレイヤーである。
鉛筆の層ができたら、その上に白いドットを置いていく。ドットのサイズはさまざまである。
実は、このドットは、描き加えるのではなく、白い修正液で黒鉛の層を塗る、概念的には黒を消して白に還元するという方法によって行われる。
鉛筆を時のレイヤーとして重ねながら、そうした黒の空間を無である白に循環させる。
そうしたドットは縦一列、横一列に並ぶこともあれば、格子点のように縦横に整列しているものもある。星辰のように宇宙空間に散らばるようなものもある。
また、修正液以外に、金、赤も部分的に使われている。修正液の上に再度、鉛筆で塗ったもの、それをさらに白で消したもの、金や赤がわずかに加えられたものなど、さまざまである。
つまり、夥しい黒の点の重層的な集積の中に、減法、加法によるドットが現れ、闇と光の空間を生成させる。
とても地道な作業で、原初的、プライマリーな形象、ミニマルな方法論を組み合わせて、ドットの大きさ、並び方、位置、間隔、広がり、色彩、マチエールの微差によって、時間の層の中に空間を誕生させる。
その宇宙に、視覚を超えた精神性を感じとることもできるのではないか。