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彫る絵画—三原色—鈴木淳夫個展 2019年9月21日-10月5日

AIN SOPH DISPATCH(名古屋) 2019年9月21日〜10月5日

 鈴木淳夫さんの作品は長く見てきた。今回はとりわけ、美しく、力強い展示である。2020年の個展「平面⇄立体」のレビュー2022年の豊川市桜ヶ丘ミュージアムでの2人展レビューも参照。

 鈴木さんは一貫して、パネルに何層、何色ものアクリル絵の具を重ね、彫刻刀で彫って絵画を成立させようという試みを続けている。色のバリエーション、彫り方、見せ方は多様だが、今回の新作は洗練されていて、飛躍を感じた。

 色面のレイヤーを作り、引っ掻いていく作家はいるが、鈴木さんの場合は、そのレイヤーが実に深く、色も多層なのが特長である。

鈴木淳夫

 オールオーバーな画面になることもあれば、グラデーションで見せることもあり、円相などの抽象画、顔や花を浮かび上がらせるなど具象にすることもあった。

 つまり、何か特定の絵画の傾向を志向するというよりは、色のレイヤーを彫ることで、さまざまな絵画を制作することが主眼なのである。

 今回は、初めて色を青、赤、黄の三原色に絞った。長い壁面に飾られたメイン作品は、赤・青・黄の3枚組が1セットで、7セットが並び、結果、21パネルが帯状に展開し、壮観である。

鈴木淳夫

 色彩はミニマルなのだが、縦方向に三角刀で彫った凹凸が連なり、しかも、それがアクリル絵の具の深く重ねられた層なので、凹の部分に陰影ができるなどニュアンスに富んで、軟らかい質感が魅力的である。

 一方、その向かえには、例えば、「青・黄・赤・青・黄・赤・青・黄」などのように8層の絵の具のレイヤーを作り、三角刀で縦方向に彫った作品がある。

 こちらは最も上層は例えば、黄色などの単色であっても、凹部分から繊細な色の層がのぞくので、全体には、単色の作品と比べ、シャープさはない半面、平面性の中に穏やかで複雑な変化が感じられる。

 もう一つ、ユニークなのは、鈴木さんは、削られた側の平面作品だけでなく、削った絵の具くずのチップも絵画の一部と考えていることだ。

 もう昔話のような話だが、彫刻家の故・若林奮さんにインタビューした時、若林さんが「ジャコメッティのアトリエの写真を見ると、制作途中の彫刻の傍らに積まれた石膏くずなどの方が光彩を放っていた」と語っていたエピソードがあって、それと一脈通じるところがある。

 こうした考えから、鈴木さんはこれまでも絵の具の削りくずをインスタレーションの一部として床に散らせたり、削りくずを球状にして、球状の絵画とも言うべきオブジェとして提示したりしていた。

 今回も、そうしたチップを組み合わせて小立体を作っている。

 説明しにくいのだが、三角刀で彫ったチップは、断面が直角三角形の柱状になるので、それらを4つ合わせると断面が正方形の細い柱になる。その柱をさらに組み合わせて集合体にしていくという感じで制作していく。

 絵の具を多層に塗り重ねたチップで立体化するので、断面が鳴門巻き(かまぼこの一種)の渦巻き模様のようになるなど、なかなかユニークである。

 鈴木さんは、アクリル絵の具を重ね塗りし、彫刻刀で彫るという、ある意味で誰でもできる制作方法をずっと続けることで技術的に洗練させ、作品としての完成度を高めてきた。

 絵の具のレイヤーの作り方、彫刻刀での彫り方によって、まだまだ作品の幅は広がりそうである。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。(井上昇治)

鈴木淳夫
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文化とメディア—書くこと、伝えることについて

1980年代から、国内外で美術、演劇などを取材し、新聞文化面、専門雑誌などに記事を書いてきました。新聞や「ぴあ」などの情報誌の時代、WEBサイト、SNSの時代を生き、2002年には芸術批評誌を立ち上げ、2019年、自らWEBメディアを始めました。情報発信のみならず、文化とメディアの関係、その歴史的展開、WEBメディアの課題と可能性、メディアリテラシーなどをテーマに、このメディアを運営しています。中日新聞社では、企業や大学向けの文章講座なども担当。現在は、アート情報発信のオウンドメディアの可能性を追究するとともに、アートライティング、広報、ビジネス向けに、文章力向上ための教材、メディアの開発を目指しています。

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