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鈴木淳夫個展 平面⇄立体 アインソフディスパッチ(名古屋)2020年11月7-28日

AIN SOPH DISPATCH(名古屋) 2020年11月7~28日

 2019年秋の「彫る絵画—三原色—鈴木淳夫個展」に続くアインソフディスパッチでの個展である。2022年の豊川市桜ヶ丘ミュージアムでの2人展レビューも参照。

 鈴木淳夫さんは1977年、愛知県豊橋市生まれ。静岡大大学院教育学研究科を修了している。

鈴木淳夫

 鈴木さんは、パネルにアクリル絵具のレイヤーを積層させ、彫刻刀で彫って絵画を成立させる試みを続けている。

 そこには、絵画とは何かを、平面と立体、絵画と彫刻を往還しながら追究する問題意識がある。

 絵画の本質が、支持体に絵具のレイヤーがのっていることだとすれば、鈴木さんは、その重層的な構造を彫刻刀で削ることで、レイヤーを物質的に顕在化させる。

鈴木淳夫

 その物質性とは、よくあるように、パネルという絵画の基底面を見せることではなく、メディウムそのものでもなく、むしろ、積層するレイヤー構造を露出することなのである。

 鈴木さんは、それを彫ることで試みた。そして、そもそも、何かを彫る、削るという行為は、物質に関わることである。

 それゆえに、鈴木さんは、削られた物質と、削り落ちた物質の両方、それらの関係を問うことで、絵画について考えているのである。

鈴木淳夫

 コロンブスの卵というのか、何層にも絵具を重ねた画面を彫刻刀で彫るという作業は単純なことだが、レイヤーの層で成り立つ絵画の姿を丸裸にしてしまう。

 削った後の平面は、絵画的であるが、同時に彫られているという意味では彫刻的である。

 削り落とされた絵具屑は、彫刻的であるが、それを集めて平面作品にすることもできる。

鈴木淳夫

 絵具を重ねたレイヤーを削り取り、削られた平面と、削り落ちた絵具屑の双方を両立させる鈴木さんの試みは、実に多彩である。

 前回は、色を青、赤、黄の三原色に絞ることで、インパクトのある空間を構成した。

 今回は、色に変化をつけて、ニュアンス豊かな画面、立体を生み出している。

鈴木淳夫

 彫刻刀で削られた面と、削り落とした絵具屑の両方が、セットとして、作品になっている。

 絵具屑のバリエーションは、とてもユニークだ。

 紐状になった絵具屑をのれんのように垂らした作品があるかと思えば、台座の上にふにゃりと置いた作品もある。

 あるいは、紐状のものを束ねて縛った立体を、3つの平面と対応するように並べた作品もある。

鈴木淳夫

 先の鈴木さんの個展のときに書いたように、彫刻家の若林奮さんは、ジャコメッティのアトリエ写真を見て、彫刻の削り屑のほうに作品性を感じたことがあった。

 この若林さんの言葉は、鈴木さんが、削られた面と、削り落とした絵具屑の両方を、作品と捉える見方に通じるところがあるだろう。

鈴木淳夫

 絵画そのものを追究してきた鈴木さんは、絵画に社会的な内容を投影することは基本的にはない。

 ただ、東日本大震災のときには、華やかな色彩が消え、鏡面のように鑑賞者の姿を映す銀色の作品を制作している。

 新型コロナウイルスの影響が甚大な今回、鈴木さんは、いつ死んでも不思議でないという感覚の中で、あらんかぎりの身体性を反映させた大型の作品を制作した。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。(井上昇治)

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文化とメディア—書くこと、伝えることについて

1980年代から、国内外で美術、演劇などを取材し、新聞文化面、専門雑誌などに記事を書いてきました。新聞や「ぴあ」などの情報誌の時代、WEBサイト、SNSの時代を生き、2002年には芸術批評誌を立ち上げ、2019年、自らWEBメディアを始めました。情報発信のみならず、文化とメディアの関係、その歴史的展開、WEBメディアの課題と可能性、メディアリテラシーなどをテーマに、このメディアを運営しています。中日新聞社では、企業や大学向けの文章講座なども担当。現在は、アート情報発信のオウンドメディアの可能性を追究するとともに、アートライティング、広報、ビジネス向けに、文章力向上ための教材、メディアの開発を目指しています。

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