アートラボあいち(名古屋市中区) 2022年10月1〜16日
杉谷遊人
国際芸術祭「あいち2022」の会期(2022年7月30日~10月10日)に合わせて企画された国際芸術祭「あいち2022」芸術大学連携プロジェクト「アートラボあいちと四芸大による連続個展」の一環。
アートラボあいちのスタッフと、愛知県立芸術大、名古屋芸術大、名古屋学芸大、名古屋造形大の4大学の教員がチームを組んで、各大学の若手1人ずつを選出。7月から10月にかけ、4つの個展を展開した。
4人は、スズキアヤノさん、大野未来さん、山田憲子さん、杉谷遊人さん。今回が最終回となる。
杉谷遊人さんは2022年、名古屋造形大学大学院造形研究科修士課程洋画研究領域修了。愛知県を拠点に制作している。
主な展覧会は、「day to day」(2018年、名古屋市市政資料館)、「宙吊りな定着」(2018年、名古屋造形大学内石彫場コンテナU8projects)、「清須市第9回はるひ絵画トリエンナーレ」(2018年、清須市はるひ美術館)である。
杉谷さんは、問題意識がとてもはっきりしている。ラテン語で「板」を意味する語《tabula)》(タブラ)が、タブローやテーブルを含むさまざまな語に派生・分化したことに注目。
語源にあたるこの語に内在するさまざまな論理、性質によって、絵画を今一度、フォーマリスティックに問い直しているのである。
板絵、あるいは空間から額縁によって切り離された絵画を意味するフランス語の《tableau》 (タブロー)は、《table》(テーブル)や哲学用語で白紙状態を意味する《tabula rasa》とも関連する。
「語源は話す、いくつかの方法」
作品は、《Tabula)》(タブラ)または《Triptych(shadow)》(三連祭壇画)のタイトルが付き、板に描かれた3つの絵画が、蝶番でつながっている。
それらは、ある作品では、ひと続きの平面として「絵画」のように壁に掛けられ、また、別の作品では、「コ」の字に曲げられ、テーブルのように設置されている。
また、パーテーションのように少し折り曲げて床に立てた作品、床に置いて壁に立て掛けた作品もある。つまり、配置、設置方法は自由に変えられる。
壁を背景にしたとしても、白い壁に対して、周囲から切断され、自律した「絵画」として飾られたものだけでなく、床に置いて、半分は壁に、残りは引き戸に立てかけ、独立した「絵画」なのか、別の何かなのか判然としない設置方法をとっている作品もある。
このように、杉谷さんは、空間に多様な方法で「絵画」を展示している。空間の中で、さまざまな配置の設定をしているところで、すでに絵画の形式にこだわっていることが分かる。
一方で、杉谷さんの作品は、油彩の点描によって視覚性が追求されている。同時に、点描の中に、マスキングをして切り絵ような形の塗り残しを存在させることで、装飾性も意識している。
また、点描によるイリュージョンによって絵画空間を意識させながら、同時に絵具を載せない部分もつくって、「板」そのものの存在も気づかせる。
つまり、杉谷さんの作品は、タブローの語源からの分岐、可能性によって、作品の中に複数性、多重性、いわば、「切り替え」を内在させている。
絵画あるいはテーブル、視覚性あるいは装飾性、絵画空間あるいは平面性(板)など、作品の内部において、あり方が切り替わるのである。
だから、鑑賞者は、作品の配置の仕方をどう認識するのか、どこから見るか、あるいは、どこを見るかによって、さまざまな性質をすくい上げることになる。
そのことを、杉谷さんは「(作品の『語源』が)話す」と言っている。つまり、《tabula)》という語源が、さまざまな性質として発現している作品である。興味深い視点である。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。(井上昇治)