STANDING PINE(名古屋) 2022年9月17日〜10月10日
Stories from Africa – Chapter1
「Stories from Africa」は、国際的に活躍しているアフリカ出身のアーティストを紹介するSTANDING PINEのシリーズ企画。「Chapter1」とあるように、本展はその第一弾である。
今回は、マリ共和国出身のアブドゥライ・コナテさんと、アンゴラ出身のジャヌアリオ・ジャノさんという2人のアーティストを紹介している。
STANDING PINEでは最近、アフリカのアーティストを積極的に紹介している。
愛知県で開催中の国際芸術祭「あいち2022」にも出品しているアブドゥライ・コナテさんは、すでに2021年にSTANDING PINEで個展を開いている。それ以外にも、たとえば、マダガスカルのジョエル・アンドリアノメアリソアさんが個展、グループ展で作品を発表している。
世界各地の美術館や国際展で、アフリカ出身やアフリカ系のアーティスト、キュレーターが活躍している。アフリカの現代美術は、異文化としてでなく、欧米の現代美術と対等な作品として存在感を高めているのだ。
アブドゥライ・コナテ
アブドゥライ・コナテさんは1953年、アフリカのマリ共和国生まれ。現在は首都のバマコを拠点に活動している。
1990年代以降、戦争や民族対立、内戦、テロ攻撃や虐殺、権力乱用、移民、HIVなどの感染症をはじめ、さまざまな政治、紛争、社会、環境に関わるテーマで、アフリカの文化・伝統に基づいた抽象的、あるいは具象的なモチーフを組み合わせた色彩豊かなテキスタイル作品を制作してきた。
アフリカでは、色彩は宗教的な象徴であり、多くの重要な意味や力を持っている。
それぞれの色は、生命、起源、平和、太陽、自然などをイメージさせる。とりわけ藍染めで有名なマリを代表する青は、アフリカの遊牧民トゥアレグ族の色でもあり、水を象徴する。
作品は、ヴェネチア・ビエンナーレ(イタリア)、ドクメンタ(ドイツ)などの国際展をはじめ、メトロポリタン美術館(ニューヨーク)、スミソニアン博物館(ワシントン)、ポンピドゥー・センター(パリ)など、世界各地の美術館で展示された。
2022年のドクメンタ15にも出品した。
今回は、黒、白、青をメインに使った新作を展示。赤やオレンジも加わって、グラデーションとコンポジションを見せ、抽象性が強い。
短冊状にしたマリ産の綿織物を重ねた色彩のシンフォニー、シンボル的な形象によって構成され作品は、コートジボワール北部とマリ南東部の先住民族セヌフォ族のミュージシャンの衣装からインスピレーションを受けた。
コナテさんの作品は、祖国を含め、世界が不安定な状況の中で、多様性の尊重と、喜び、平和、調和、協調への祈りに満ちている。
かつての政治的、社会的メッセージが前面に出た作品は影を潜め、森羅万象、無限の広がりの中に、愛と希望に向けた調和の交響曲が奏でられているのである。
ジャヌアリオ・ジャノ
ジャヌアリオ・ジャノさんは1979年、アンゴラの首都ルアンダ生まれ。英国ロンドン大学ゴールドスミス・カレッジで修士号を取得し、現在は、ルアンダ、ロンドン、リスボンを拠点に活動している。
個人的な物語とアフリカの歴史、民族の文化を交差させ、写真や映像、サウンド、彫刻、テキスタイル、パフォーマンスなど、さまざまなメディアを用いてインスタレーション形式で表現している。
今回、壁に設られているのは、テキスタイルを使った立体作品である。ベッドがモチーフになっている。ベッドは普通、床に置かれるものだが、ここでは壁にセッティングされている。
実際のベッドがあるわけではなく、異なる質感の布が重ねられ、ベッドらしきものが構成されている。布は乱れ、あるいは、引きちぎられた状態で、「破壊されたベッド」が暗示されている。
ジャノさんの作品で、ベッドは、人間の生死のメタファーである。本来であれば、人間が身体を横たえ、睡眠、成長、休息、愛、出産など、生の貴重な時間をゆだね、あるいは死を迎えるベッドが破壊されている。
いわば、人間の身体、生命活動、記憶、無意識とともにある大切な場所が危機にさらされている。
作品は不穏な雰囲気を醸している。安らかな眠りを約束してくれるはずのベッドが立てられ、しかも破壊されていること自体が、アフリカの置かれている状況を暗示している。
布の一部には、民族的なアイデンティティが投影された舟やアフリカの木彫人形らしいイメージが反復してプリントされている。
この舟から、筆者は、ジム・ジャームッシュ監督の映画「デッドマン」で、ジョニー・デップ演じるウィリアム(ウィリアム・ブレイク)が魂の故郷に帰る舟、いわば死出の旅路を想起した。
写真作品は、作家本人によるパフォーマンスのスチールを連作として並べたものである。
ジャノさんが、黒い椅子に結えられた赤い紐を引っ張ったり、椅子を頭の上に載せたりと、さまざまなポーズをとっている。
この作品ではとりわけ、身体を主要なモチーフとして、アイデンティティの構築過程における複雑さ、特異性が探求されている。
すなわち、ルアンダとその周辺に住むアンブンド族の習慣、儀式と、作家自身の家族の物語が交わる歴史的、集団的かつ個人的なプロジェクトである。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。(井上昇治)