STANDING PINE(名古屋) 2022年4月9日~5月7日
岡崎和郎、ジャンフランコ・ザッペティーニ、ぺ・ランのグループ展
「大地の歌」をテーマにした3人のアーティストのグループ展。岡崎和郎さん、ジャンフランコ・ザッペティーニさん、ぺ・ランさんが参加している。
自然と親和性のある3人の代表作や新作を展示した。
岡崎和郎
岡崎和郎さんは1930年生まれ。身の回りにある物やイメージ、自然物を引用し、それらの内実を反転させる手法によって、オブジェを制作している。
従来の思想で見落とされてきたものを補うという「御物補遺」の造形概念を提唱。1960年代に美術批評家の瀧口修造に認められ、戦後の日本美術史において重要な作家として評価されている。
ジャンフランコ・ザッペティーニ
ジャンフランコ・ザッペティーニさんは1939年、イタリア・ジェノヴァ生まれ。現在は2003年にザッペティーニ財団が設立されたキアーヴァリで活動している。
ザッペティーニさんは、イタリア戦後美術を代表するムーブメント「Pittura Analitica(Analytic Painting)」のアーティストの1人。
その活動は、米国のミニマリズムやヨーロッパのさまざまな抽象芸術ムーブメントと密接に関わっている。
1971年には、ドイツ・ミュンスターで開かれた「Arte Concreta」展に、ルチオ・フォンタナ、ファウスト・メロッティ、ブルーノ・ムナーリ、エンツォ・マリらと共に参加。1977年には、国際展のドクメンタ 6に招待された。
キャンバス全体に広がる黒い下地の上に白いアクリル絵具を何層にも重ねて描き加える抽象絵画で知られ、40年以上、絵画を探求している。2019年にSTANDING PINEで開催されたジャンフランコ・ザッペティーニ個展のレビューも参照。
ぺ・ラン
ペ・ランは1974年、スイス生まれ。同国を拠点に活動するキネティック・アート(動く美術作品)の作家である。
機械的装置のシンプルな連続運動によって,繊細な音や視覚効果が生み出される立体やサウンド・インスタレーションを発表。動力、視覚、音による相互作用を探求している。
無機質な機械パーツの組み合わせによって作られているはずの作品が、予期しない動きや音を作りだし、柔らかで有機的な表情を見せる。
“Songs of the Earth – 大地の歌”
ザッペティーニさんは、30、40代の頃、道教、禅など東洋の思想、精神性に興味をもった。金や銀という色彩を使うことが多いのは、そうした影響もある。
砂金とアクリル絵具を何層にも塗った「CON CENTRO n.52」は、砂紋のような円の重なりから、アジアへの旅で出会った禅の思想が想起される。
枯山水の砂紋、風によって刻まれた大地の模様、あるいは水流、大気の流れと言ってもいい。
制作過程にも重きが置かれた作品は、メディウムの可能性を拡張しながら、空間認識や描くことの意味を問いかけている。
近年、ザッペティーニさんは、自然界に存在する特定の色や物質の象徴性や精神性に焦点を当てた作品を発表している。
天秤のような梃子の両端に小さなスピーカーが付いて回転する3基の作品は、ペ・ランさんと、サウンドアーティストのマリアンティ・パパレクサンドリさんとのコラボレーション作品である。
回転するモーターの動きに合わせて聞こえてくる音は電子音ではなく、スピーカーの振動板の中心に直接伝わる摩擦音から発生している。
スピーカーを垂らした糸と梃子との接触部分の擦れる音が伝わり、オーガニックで瞑想的な響きを空間に広げる。
簡素な機械装置から生じる、自然界にあるような優しく刹那的な響き。静的で深みのある音は、地中の空洞で反響を繰り返す繊細な水琴窟のようでもあり、秩序の中の無秩序、無秩序の中の秩序が想起される。
同様に、回転するワイヤーの振動によって数多くの小さなゴムリングが互いに衝突を繰り返す作品も、機械に宿る生命、自然界の摂理の規則性と不規則性について考えさせる。
1つ1つのリングが楽譜の音符に見え、複雑な動きから、あたかも、せせらぎのような音が響いてくるようである。
岡崎和郎さんは、1998年にブロンズで制作された「HISASHI」と、新作の「心棒」を展示した。
「HISASHI」は庇から着想を得て制作され、1977年頃から現在まで、さまざまな素材、形状へと展開。「補遺」の概念を表す岡崎さんの代表的なシリーズになっている。
「休息」という主題が色濃く反映されているのも「HISASHI」の特徴。自然界の中で、日差しや風雨をしのいで休息できる場がそうであるように、「HISASHI」の形は有機的でもある。
「心棒」は、床に垂直に立つ中心軸に、透明の球体と赤い溶岩が据えられ、その間に「手の跡」の彫刻が浮遊する立体。
図式的に見れば、天(球体)と地(溶岩)の間を人間(手)が取り結ぶ関係が読み取れる。宇宙、森羅万象と人間の外界、内界の関係をイメージさせる作品である。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。(井上昇治)