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ワン・ビン監督「死霊魂」名古屋シネマテークで9月19、20日 予約制で上映

ワン・ビン監督「死霊魂」名古屋シネマテークで9月19、20日 予約制で上映

 中国人監督ワン・ビンが、中国共産党の「反右派闘争」による粛清を生存者の記憶から映像化したドキュメンタリーの超大作「死霊魂」が2020年9月19、20日正午から、名古屋・今池の名古屋シネマテークで上映される。権力によって押しつぶされた歴史の闇を掘り起こし、忘れられた死者の魂を召喚した三部構成計8時間26分の巨編。当日券のみ3900円。予約制。

 2018年カンヌ国際映画祭特別招待作品。「三姉妹 雲南の子」「苦い銭」「無言歌」のワン・ビン監督が、2019年の山形国際ドキュメンタリー映画祭で、「鉄西区」「鳳鳴 中国の記憶」に続き、3度目の大賞と観客賞を受賞した。

 「無言歌」「鳳鳴」でも取り上げた中国共産党の反右派闘争・粛清から生き残った人々の記憶がテーマ。人間の尊厳、歴史の記憶を語り継ごうという崇高な思いが貫く圧倒的な作品である。

 「反右派闘争」は、1950年代後半、「我々は人民の自由な発言を歓迎する!」と中国共産党が主導した「百家争鳴」「百花斉放」キャンペーンに翻弄された人たちが、死の強制労働へと送られた中国史の闇である。

 キャンペーンにのせられ自由に発言した人たちは〈右派分子〉とされ、50万人超が労働改造へと追放された。

 1959年〜61年の大飢饉も重なり、ゴビ砂漠にある再教育収容所は地獄と化した。仲間の死体も食べたという「餓死収容所」。ワン・ビン監督は、凄惨極まりない飢餓の状況を生き延びた人を探しだし、2005年から2017年まで撮影。120人の証言、600時間にも及ぶ映像から、作品を完成させた。

 背景や状況を提示し、収容所の扉を開ける第一部。飢餓の状況に衝撃がはしる第二部。右派を弾圧した側の証言者の重い問いかけと、死の間際にある人々の思いが壮絶にして崇高な第三部へ――。

 中国共産党主席・毛沢東の中華人民共和国は、1956年にソ連でスターリン批判が始まったことも契機となり、「共産党への批判を歓迎する」と「百家争鳴」「百花斉放」と呼ばれる運動を推進した。

  しかし、知識人の間で党への官僚主義批判が出始めると、毛沢東は1957年6月、人民日報に「右派分子が社会主義を攻撃している」という社説を掲載。突如、急転換した。

 共産中国に反する者を「右派分子」と呼び、党を批判した人々を容赦なく強制収容所へと送り込む「反右派闘争」を開始したのである。

 反右派闘争で党内主導権を掌握した毛沢東は、「15年以内にイギリス、アメリカを追い越す」と宣言。 1958年から、農業と工業の大増産を目指す無謀な「大躍進」政策をとった。

 現実を無視した手法と粛清 による権力闘争で大混乱を招き、大旱魃が重なったこともあって、人類史上まれに見る大飢饉と産業、インフラ、環境の大破壊を招いた。その死者数は3年間で2000万~4500万ともされる。

 「4500万人の死者を出した史上最も悲惨で破壊的な人災」と伝えたフランク・ディケーター著『毛沢東 の大飢饉』や、「毛沢東の独裁とそれに追随する官僚機構の悲惨なる失敗を浮かび上がらせた」とした楊継縄著『毛沢東 大躍進秘録』など、国際的に評価された歴史書がある一方で、「大躍進の時期に栄養失調で亡くなった人は最大250万人」「政策のせいではなく、自然災害で仕方なかった」と、それらに反論する中国内の声もいまだ根強いという。

 80歳前後の年齢となった証言者たちがカメラ越しに紡ぐ言葉や、まなざしの先にある記憶は、未曾有の歴史的惨事のみならず、人間の極限的な状況を体験した者だけが伝えうる生命の尊厳と魂の救済を訴えている。

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文化とメディア—書くこと、伝えることについて

1980年代から、国内外で美術、演劇などを取材し、新聞文化面、専門雑誌などに記事を書いてきました。新聞や「ぴあ」などの情報誌の時代、WEBサイト、SNSの時代を生き、2002年には芸術批評誌を立ち上げ、2019年、自らWEBメディアを始めました。情報発信のみならず、文化とメディアの関係、その歴史的展開、WEBメディアの課題と可能性、メディアリテラシーなどをテーマに、このメディアを運営しています。中日新聞社では、企業や大学向けの文章講座なども担当。現在は、アート情報発信のオウンドメディアの可能性を追究するとともに、アートライティング、広報、ビジネス向けに、文章力向上ための教材、メディアの開発を目指しています。

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