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塩谷良太展 瀬戸市美術館 かたちに、かたちのないもの

  • 2020年9月7日
  • 2022年9月13日
  • 工芸

瀬戸市美術館(愛知県瀬戸市) 2020年8月1日〜9月27日

 塩谷さんは1978年東京生まれ。多摩美術大で陶を専攻した後、筑波大大学院芸術研究科デザイン専攻総合造形分野修了。本展は、2019年に開かれた「第3回瀬戸・藤四郎トリエンナーレ〜瀬戸の原土を活かして〜」のグランプリ受賞者展として開催された。

 同トリエンナーレには、自分で採集した瀬戸の原土から作った粘土で制作するという、応募規定がある。塩谷さんは、2016年のトリエンナーレの際にも応募し、審査員特別賞「高満津子賞」を受賞している。

 今回の展示には、昨年のトリエンナーレの受賞作「頂で身を寄せ合う」の連作と、「物腰」という別のシリーズから、近作、新作約20点が紹介された。数種類の原土を寄り合わせる発想で制作されたという受賞作「頂で身を寄せ合う」は、展示会場の最初に展示されていた。

 山のような形態のオブジェであるが、下から上へと土の塊が次々と覆いかぶさるように伸びていき、層をなしている。タイトル通り、多層的な土が頂上を目指して、そこで1つになるようなイメージ。

 面白いのは、もちろん、土は静止しているのだが、まるで下から上へと土が押し出されるようなダイナミズムが感じられることである。プリミティブで素朴な存在感とカラフルな色彩の、ある種の不調和もむしろユーモラスである。

塩谷良太

 審査員からは、「原土」から誘発された想像力や、表現力が高く評価されたという。確かに、プリミティブで動きのある造形、コントロールされた造形でありながら均質なバランスを欠いた形態は、「原土」という言葉からイメージされたものなのだろう。

 「頂で身を寄せ合う」以外の作品では、「物腰」と題された団子のような形態のシリーズ、それをスケールダウンした「てのり物腰」の連作と、ドローイング類がある。

「物腰」「てのり物腰」は、ものや人の姿、雰囲気、性質が現れ出るような存在感や動感—日本語で言うところのまさしく「物腰」—を抽象化した作品だと解釈した。

 というのも、それらの作品には、単純でプライマリーな形態でありながら、確かに、その均整を欠いたありよう、表面のかすかな起伏、色彩の変化などから、動きとともにその作品ならではの佇まいが感じられるからである。

塩谷良太

 さらに言うと、塩谷さんの展示では、さまざまな「物腰」が台座や高さを変え、変奏されるように展示されている。

 それらを眺めると、それぞれの作品の色彩や形態を超えた性質が擬人化されたように感じられるから不思議だ。

塩谷良太

 会場を巡って、視点を動かしていくと、それらは、より生き生きと愛嬌を振りまいてくる(ように感じられた)。まさに形態や色彩を超えたフィクショナルな佇まいである。

塩谷良太

 「てのり物腰」という小品が連なって展示された長い台には、大小の多様な陶作品が奥行きのある空間に点在し、ドローイングと関連づけられている。台上のドローイングの上に作品が載っているなど、かなり実験的である。

塩谷良太

 陶作品の表面の色彩や模様が、それらの置かれた台と呼応するように仕組まれた場所もある。

 塩谷さんは、アンリ・ベルクソン、ジェームズ・ギブソンの空間についての考察なども援用しながら、動きによって更新されていく見え方、オブジェクトを超えた存在、空間や遠近感の質に関心を向けている。

塩谷良太

 塩谷さんにとって、表現とは、その作家が固有に発見した認識を伝える形や色彩などによって、見る人の精神を快活にすることである。そして、塩谷さんは、作品は、単体のみならず、場所や置かれた状況によって固有のリアリティーを発することができると考える。

 例えば、茶碗も、茶碗だけでなく、茶室空間のしつらえや人の所作など総合化された中で、よりその存在が生きる。それと同じである。

塩谷良太

 固有のリアリティーに深く関わるもの、すなわち塩谷さんが造形の核に据えるのが、「動き」である。そう考えて見ていくと、意図的に練られた展示の面白みがより楽しめるのではないだろうか。

 台座や展示方法にさまざまな工夫をするなど、それぞれが陶芸作品であるとともに、全体がインスタレーションとして、綿密に構成されている。ドローイングは、そうした制作の背景や思考の理解を助ける。

塩谷良太
塩谷良太

 陶芸の展覧会としては、かなり意表を突く試みである。

 床に近いピンク色の面に置かれた「物腰」は、艶かしい態様を見せている。その先にある黒白模様の「物腰」は、やや高い位置の黒い台に置かれ、モノクロームのドローイング、黒い背景(地)と関連付けられた。

 陶芸作品として楽しめる一方、現代美術として、表現と動き、オブジェのリアリティー、空間の質、空間と物の関係など、さまざまな観点で興味深い展示である。

塩谷良太

最後までお読みいただき、ありがとうございます。(井上昇治)

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文化とメディア—書くこと、伝えることについて

1980年代から、国内外で美術、演劇などを取材し、新聞文化面、専門雑誌などに記事を書いてきました。新聞や「ぴあ」などの情報誌の時代、WEBサイト、SNSの時代を生き、2002年には芸術批評誌を立ち上げ、2019年、自らWEBメディアを始めました。情報発信のみならず、文化とメディアの関係、その歴史的展開、WEBメディアの課題と可能性、メディアリテラシーなどをテーマに、このメディアを運営しています。中日新聞社では、企業や大学向けの文章講座なども担当。現在は、アート情報発信のオウンドメディアの可能性を追究するとともに、アートライティング、広報、ビジネス向けに、文章力向上ための教材、メディアの開発を目指しています。

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