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塩田千春「朝、目が覚めると」ケンジタキギャラリー(名古屋)で8月2日-10月1日

ケンジタキギャラリー(名古屋) 2022年8月2日〜10月1日

塩田千春

 塩田千春さんは1972年、大阪府生まれ。ドイツ・ベルリン在住。空間に糸を張り巡らす大規模なインスタレーションを中心に、立体や映像、写真、ドローイングなど、さまざまな手法によって作品を制作している。

 2015年、第56回ヴェネチア・ビエンナーレに日本代表として参加。2019年には、森美術館での個展「魂がふるえる」が話題となった。その他、国内外での展覧会、国際展に数多く出品。生と死という人間の根源と向き合う作品を展開している。

 現在はちょうど、国際芸術祭「あいち2022」に出品している。一宮市会場で、織物の機械や糸巻きの芯などと一体となったダイナミックな作品や、繊細な「Cell(細胞)」シリーズなどを見せた塩田さんが、こちらのギャラリーでは、ドローイングを中心に展示している。

塩田千春

 ベッドを使ったインスタレーション作品を含め、見応えがある。国際芸術祭「あいち2022」で名古屋を訪れた人は、ぜひ見てほしい。

 塩田さんは2021年、ケンジタキギャラリーで、イケムラレイコさんとの2人展も開いている。2019年のケンジタキギャラリーでの個展レビューを参照。

朝、目が覚めると

 今回の塩田さんのドローイングは、展覧会開催のため訪れた中国・上海で2021年11-12月ごろ、コロナ禍によるホテルでの隔離を余儀なくされた時間に描かれたものである。

 水溶性ワックスパステル、インクで描かれ、所々に赤や黒の糸が使われている。

 1階に展示された連作「朝、目が覚めると」は、上海のホテルで、朝、目が覚めて最初に見えたものを描いた10点の連作。日記のような言葉が添えられている。

塩田千春

 ホテルの室内、ベッド、椅子やテーブルの上、自らの足と思われる身体の一部、服、靴など、隔離された空間にあるものがどこか神秘的なイメージとして描写されている。

 黒を基調に、赤、青などの色が入り、濃淡、にじみや、赤、黒の糸によって、幻想的なイメージに仕上げている。

 塩田さん自らが本にすることを意識して制作し、8月に同名タイトルのドローイング集としてケンジタキギャラリーから出版された。

 この本の最後のページには、「朝、目が覚めて まだ 生きている 自分に きづく」とある。英訳も載っている。

塩田千春

 When I wake up in the morning, I find myself still alive.

《STILL ALIVE》は、まさに「あいち2022」のテーマである。

不在の中の存在

 一階には、ベッドを使った新作インスタレーション「不在の中の存在」が展示されている。

 血液を想起させる赤い液体が流れるチューブがベッドの上や周辺に張り巡らされ、白いベッドと「血液の循環」によって、身体の不在と、生命、存在の気配を漂わせている。

 過去の映像作品にも、赤い液体が流れるチューブが、横たわる塩田さんに絡み付く作品がある。

塩田千春

 また、塩田さんは2010年、最初のあいちトリエンナーレに参加したとき、名古屋市美術館の吹き抜け空間を使い、白い巨大なワンピースに、やはり赤い液体が流れるチューブが絡みついた作品「不在との対話」を展示している。

 そう振り返ると、今回のインスタレーションは、開催中の「あいち2022」のみならず、2010年のあいちトリエンナーレも意識していることが分かる。

 塩田さんのこれらの作品は、「器官なき身体」を超えた、「身体なきいのち」と言えるものである。それは、精神といってもいいし、魂と言ってもいい生きているあかしである。

塩田千春

 2階には、「上海での隔離」、「宇宙とつながる」という2つのドローイングのシリーズが展示されている。これらも上海での隔離期間に描かれた。

 「上海での隔離」は、1階の「朝、目が覚めると」のドローイングと連続性が強い作品である。

 「朝、目が覚めると」と異なり、群衆や家並みなど、ホテルに向かう途中のイメージもあるが、多くは、ホテル室内のイメージである。

塩田千春

 「宇宙とつながる」は、タイトル通り、身体と宇宙がつながっているイメージの連作ドローイングである。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

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文化とメディア—書くこと、伝えることについて

1980年代から、国内外で美術、演劇などを取材し、新聞文化面、専門雑誌などに記事を書いてきました。新聞や「ぴあ」などの情報誌の時代、WEBサイト、SNSの時代を生き、2002年には芸術批評誌を立ち上げ、2019年、自らWEBメディアを始めました。情報発信のみならず、文化とメディアの関係、その歴史的展開、WEBメディアの課題と可能性、メディアリテラシーなどをテーマに、このメディアを運営しています。中日新聞社では、企業や大学向けの文章講座なども担当。現在は、アート情報発信のオウンドメディアの可能性を追究するとともに、アートライティング、広報、ビジネス向けに、文章力向上ための教材、メディアの開発を目指しています。

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