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岩間賢 Satoshi Iwama  一泉の穴 ライツギャラリー(名古屋)で2024年9月20,21,27,28日,10月4,5日

ライツギャラリー(名古屋)で2024年9月20,21,27,28日,10月4,5日

岩間賢

 岩間賢さんは1974年、千葉県生まれ。東京藝術大学美術学部絵画科油画専攻卒業、同大学院美術研究科修士課程壁画専攻修了。同大学院美術研究科後期博士過程絵画専攻(美術博士号)修了。中国美術学院総合芸術系(中国、杭州)修了。中央美術学院彫塑系博士課程(中国、北京)修了。

 2015年から2023年3月まで愛知県立芸術大学美術学部で准教授。2023年4月から東京藝術大学美術学部絵画科油画専攻(壁画第二研究室)准教授を務める。

 岩間さんの作品は、土地の風土、環境に根差したものである。土地の自然素材によってバナキュラーな作品を制作。とりわけ土(大地)を素材とし、日本の土壁技法によるプロジェクトとして展開されたものが多くある。

 愛知県立芸大に8年間勤務しているが、筆者はこれまで作品を見る機会がなく、今回、作品にも、本人にも初めて接点を持つことができた。

 作品の多くが、2009年、2012年、2015年に参加した「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」など、屋外に生態学的空間を展示するスタイルを取っていることもあって、大都市のギャラリーで見る機会が難しいせいもある。

 その意味でも、ギャラリーの空間を生かしつつ、これまでの制作を新たな形で展開した今回は貴重な機会である。

 2011年の年東日本大震災を契機に取手アートプロジェクト「半農半芸」のディレクターを務めるなど、新しい視点で作品や芸術祭を創造している。

一泉の穴 ライツギャラリー2024年

 背景に、大地、自然、農(稲作)、そして、生命と環境、人間が生きることの根源を見据えた制作思想がしっかりとあることが分かる。

 ギャラリーの1階には、巨大な土の造形作品が2つ展示されている。これだけの規模、完成度の作品をギャラリー空間で見るのは、滅多にあることではない。迫力といい、訴求力といい、圧巻である。

 外から持ち込むことができないため、展示終了後は、惜しくも解体される。ただ、素材の多くは再利用されるという。

 土壁技法が基本にある。木で全体の骨組みを作り、ベニヤ板を短冊状にした細い木材を編むようにして形態を作り(別の制作現場では、竹を使うことも多いようだ)、麻布を張って左官の要領で土を塗っていく。今回、土は、昨年度まで勤めた愛知県立芸大がある長久手市の耕作放棄地の土を使ったという。

 以前の制作では、動物園から出された象の糞、あるいは農家からの牛糞を使ったことがあると聞いた。動物や人間の営みを大きな自然の循環の中で捉えている。

 作品の各部分は、いずれも自然に還る素材である。生態系における循環や、制作時の協働を含め、芸術と労働についての考え方、ひいては膨大な時間の流れを刻む地球、人類への思索が反映していると思われる。

 土で作られた有機的な作品はいずれもプリミティブで、それ自体が生命の形態のようである。すべての個々の生命体の中に入って、生命を生命たらしめる、いのちの全体性が、この宇宙にあるとすれば、こんな形へと形象化されるのではないだろうか。

 この空間の空中に浮遊している雫や光の粒を拡大し、可視化したもの、生命現象や土地の記憶を顕在化させる生気の形という言い方もできるかもしれない。

 古い日本家屋をリノベーションした、このギャラリー空間の暗がりの中で、時間と共にうつろいゆく微かな外光と、抑制した照明の光をまとうようにして、静かに呼吸を続けながら、存在を示している。美しい。。。

 ギリシア哲学で、存在の原理、呼吸、生命、エネルギー、精神の根源とされるプネウマを想起させる展示でもある。

 この世界では、生命、自然、環境、無生物をも含め、すべてがつながり、支えあっている。あらゆるものが、「自分」だけでは存在できないのだ。仏教でいう縁起である。

 近代的な二元論、仕分けの思考ではなく、ここには、緩やかにすべてがグラデーションとして結び合っている、いのちの感覚がある。全てを受けとめ合う大地の精神が、気配として展示空間に満ちている。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。(井上昇治)

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文化とメディア—書くこと、伝えることについて

1980年代から、国内外で美術、演劇などを取材し、新聞文化面、専門雑誌などに記事を書いてきました。新聞や「ぴあ」などの情報誌の時代、WEBサイト、SNSの時代を生き、2002年には芸術批評誌を立ち上げ、2019年、自らWEBメディアを始めました。情報発信のみならず、文化とメディアの関係、その歴史的展開、WEBメディアの課題と可能性、メディアリテラシーなどをテーマに、このメディアを運営しています。中日新聞社では、企業や大学向けの文章講座なども担当。現在は、アート情報発信のオウンドメディアの可能性を追究するとともに、アートライティング、広報、ビジネス向けに、文章力向上ための教材、メディアの開発を目指しています。

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