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佐藤雅之展 目黒陶芸館本館(三重県四日市市)2024年10月20-27日

目黒陶芸館本館(三重県四日市市) 2024年10月20〜27日

佐藤雅之

 佐藤雅之さんは1968年、新潟県生まれ。1993年、武蔵野美術大学短期大学部工芸デザイン専攻陶磁コース卒業。1997年に多治見市陶磁器意匠研究所修了。茨城県立笠間陶芸大学校の特命教授を務めている。

 「新進陶芸家による『東海現代陶芸の今』」(2008年、愛知県陶磁資料館)、「現代・陶芸現象」(2014年、茨城県陶芸美術館)など、美術館の企画展にも数多く参加している。 

 国際陶磁器展美濃の陶芸部門・審査員特別賞、菊池ビエンナーレ優秀賞などを受賞。2024年の台湾国際陶磁ビエンナーレでグランプリを獲得した。

 近年展開する「殻の巣」シリーズは、磁器土を薄く延ばして作った卵の殻のようなユニットを増殖させた形態である。

 今回、登録有形文化財の展示空間に設置された作品は、サイズが大きく、形も色の使い方も変化に富んでいる。2022年の多治見市陶磁器意匠研究所の個展で見たとき以上に力強く、そして複雑なダイナミズムを孕んでいる。

2024年個展

 殻は、細長く先端が尖った器形だが、手捻りで1つ1つ丁寧に作られ、サイズも形も微妙に違っている。

 各々のモジュールが同類同型でありながら、不定形の要素もあることで、予測できないような姿を生んでいるのだ。

 言い換えると、個としての殻が連続しながら癒着して重層化することで、全体性と個性が相互に反応しあっているような、スリリングな動きを感じさせる。

 概ね、個々のモジュールのサイズは同じくらいだが、形や長さ、向き、折れ曲がり具合、面の曲率、歪み、ねじれ、割れたような口縁部の違いなどによって、動きが動きを生むような連鎖性をつくっている。

 個々の殻パーツは極薄の磁器の層である。だから、この佐藤さんの作品の力強さとダイナミズムは、こうしたさまざまな性質を持った、フラジャイルなものの支え合いによって生まれるものだ。

 それはある意味で、生態系、社会、もっと言えば、この世界、宇宙の隠喩のように感じられる構造でもある。

 前回の個展レビューでも書いたが、全体が伸びるような動きを見せながら、1つ1つの殻がランダムな個性を見せながら感応し合うように連鎖していることが、佐藤さんの作品の力になっている。

 併せて言えば、今回は、色の使い方がはるかに発展していた。磁器の白が基調ながら、茶色や黒色を使って、これまでのイメージを打ち破った作品や、マットな青色を大胆に作品の上部に用いて、印象をガラリと変えた展開などが特に興味深い。

 前者は、従来の作家の向き合い方と全く違う世界観の予兆になっているし、後者は、作品の中ほどで一度すぼんだ形態が再度、上に向かって開放してしていくような清新なイメージを表している。

 現代陶芸では、パーツを増殖させて作った作品は少なくないが、その多くは、ただ部品を寄せ集めただけになっていて「生」が感じられないこともある。

 一方、佐藤さんの作品では、全体の動き、個々のモジュールの蠢き、色彩による変化が連動しながら、包括的ないのちの働きのようなものを感受させる。

 全体性と1つ1つのモジュールの積み重ねがわかちがたく結び合っているのだ。

 予定調和的なイメージ、経験的、記憶的、規範的な自己像を掻き乱し、転調させるような小さなズレの集積として、個々のモジュールが全体に作用している、という言い方もできるだろう。

 それが決まりきったパターンでない、作品の多様性、可能性につながっている。

 複雑系ともいえる形態、それでいて、しっかりとした密度を持った作品は、どこまでも深く、見ていて飽きない。

 最後までお読みいただき、ありがとうございます。(井上昇治)

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文化とメディア—書くこと、伝えることについて

1980年代から、国内外で美術、演劇などを取材し、新聞文化面、専門雑誌などに記事を書いてきました。新聞や「ぴあ」などの情報誌の時代、WEBサイト、SNSの時代を生き、2002年には芸術批評誌を立ち上げ、2019年、自らWEBメディアを始めました。情報発信のみならず、文化とメディアの関係、その歴史的展開、WEBメディアの課題と可能性、メディアリテラシーなどをテーマに、このメディアを運営しています。中日新聞社では、企業や大学向けの文章講座なども担当。現在は、アート情報発信のオウンドメディアの可能性を追究するとともに、アートライティング、広報、ビジネス向けに、文章力向上ための教材、メディアの開発を目指しています。

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