記事内に商品プロモーションを含む場合があります

佐藤克久 あけっぴろげ See Saw gallery + hibit(名古屋)で2023年9月16日-10月28日

  • 2023年10月3日
  • 2023年10月4日
  • 美術

See Saw gallery + hibit(名古屋) 2023年9月16日〜10月28日

佐藤克久

 佐藤克久さんは1973年、広島県生まれ。1999年、愛知県立芸術大学大学院美術研究科油画専攻修了。名古屋と東京を中心に個展を開いている。

 名古屋での個展は、2016年(See Saw gallery+hibit)以来となる。See Saw gallery+hibitでは、2019年に末永史尚さんとの2人展を開いている。

 また、2023年「コレクション 小さきもの─宇宙/猫」(豊田市美術館、愛知)、2019年の「豊田市美術館 リニューアルオープン記念 コレクション展 世界を開くのは誰だ?」(豊田市美術館、愛知)、「愛知県美術館リニューアル・オープン記念 全館コレクション企画 アイチアートクロニクル1919–2019」(愛知県美術館)や、「あいちトリエンナーレ2016」にも参加した。

佐藤克久

 佐藤さんは、絵画をフォーマリズム的な見方、特に絵画を成り立たせる構造を分析するように解体し、その諸要素を改めて組み立てるようにしながら、注意深く色彩を配することによって、オルタナティブな「絵画」を提案する。

 その手並みは実に軽やかで、支持体やそのサイズ、絵具などの素材、色彩や形、線やそれらの重なり、地と図の関係など、絵画を成り立たせる要素の在り方を可能性の中から選びぬき、自由に、ユーモアたっぷりに作品を展開させる。

 絵画を形式面で捉えたときの要素の選択は無限にあり、それが新たな「絵画」への思考となっている。

佐藤克久

 とりわけ、今回は、色彩が実に豊かで、その重なりと絵画形式の変奏による視覚効果が丹念に試されている。

 カフェ・ギャラリーであるSee Saw gallery+hibitのさまざまな空間に多様な作品を散らばらせ、とても楽しい展示になっている。

 東京のSHINBI GALLERYで開いた2023年の個展「とりもなおさず」では展示しなかった新作や、張り子の小さな立体作品も展示している。

あけっぴろげ

佐藤克久

 矩形の画面を矩形に分割し、色面で分けた絵画らしい絵画がある。絵具は、とてもしっとりと支持体に浸潤している。

 この一見、ミニマルな印象を与える色面のエッジを見ると、色が重ねられ、微妙な効果を出していることが分かる。より明らかに矩形の色面が重ねられた作品では、例えば、青、黄、緑の色相の、いくつかの異なる色の繊細な重なりが選ばれている。

 今回、10月27日午後6時から、インディペンデント・キュレーターの林寿美さんを招いてトークが開かれるが、そのとき、参照されるのがロバート・ライマンだと聞いて、なんとなく分かる気がした。

佐藤克久

 林寿美さんは、以前、DIC川村記念美術館にいらっしゃって、遠い、遠い昔だが、新聞記者時代の筆者も取材に訪れ、お世話になったことがある。

 林さんは、同美術館で2004年にロバート・ライマンの展覧会も企画している。そのときのカタログも手元にあるが、正方形の支持体に白一色で描くライマンは、白い絵と言っても実に多様で、ミニマルな絵画ではない。

 白という色彩と、正方形という支持体の形を一定にし、サイズや素材、塗り方や筆触、質感、光や空間など、他の変数を変えていくことで、絵画というものの存在と価値をあらわにするためのバリエーションと豊かさを試みているのである。

佐藤克久

 つまり、ここでは、白というモノクロームと正方形という画面の形を一定の条件にし、他の変数を変えることで、何を描くかという内容ではなく、どう描くかという形式面によって、絵画を成り立たせる諸要素の特徴が、作品1点ごとに際立ってくる。

 こうしたライマンの考えは、絵画を形式面から捉え、諸要素を解体しつつ選択して組み立て直す佐藤さんと似たところがあるのである。

 さて、今回の佐藤さんの個展では、絵画の本質をレイヤーと捉え、そのレイヤーの重なりを意識させるように色彩を選択し、巧みに重ねた作品が多く出品されている。

佐藤克久

 また、アクリル絵具で着色したキャンバスシートを円や矩形に切って、床に重ねるように置いた作品は、インスタレーションと言ってもいいが、これもレイヤーを重ねた抽象絵画という見方もできる。

 「L」の形になるように壁に展示した大きな絵画は、いくつものレイヤーを重ねながら、同時に、小さな絵画をコンバインして広げたような印象も受ける。

 1つの壁でなく、コーナーに置くことで、作品が2つの平面に分かれ、平面性を通常とは異なる次元から考えているようにも見えた。

佐藤克久

 キャンバスシートを木枠に張らずに、壁にだらりと垂らし、二分割した一方を巻き上げたようにした奇妙な形状の作品では、表裏を異なる色で塗り分け、エッジにしみのような部分を作っている。

 一般的には裏側と思われる側を絵画として見せた作品や、ギャラリーの内と外の両側から見られるようにガラス面に設置した作品では、絵画形式と展示方法をずらし、表と裏、内と外の関係や、見るという行為をも問い直している。

 佐藤さんは、柔軟に絵画を解体しながら、さりとて、絵画を突き放すこともなく、支持体を木枠からはがしたり、表裏を変えたり、あるいはキャンバスシートを垂れ下げたりしながら、絵画という形式を成立させる要素の機能を拡張しているのである。

佐藤克久

 とりわけ、今回の展示では、レイヤーと色彩の重なり、支持体の裏表、結合や反転、しみのような絵具の浸透がテーマになっているように思える。

 そうして展開された、さまざまな「絵画」が色鮮やかに、軽やかに空間に配されている趣で、とても気持ちが良い。

 hibitでは、台の上に、陶片と、紙に彩色した張り子を組み合わせた「みたて」というシリーズが出品されている。自由な発想に、知的な探究心を感じさせる作品である。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。(井上昇治)

最新情報をチェックしよう!
>文化とメディア—書くこと、伝えることについて

文化とメディア—書くこと、伝えることについて

1980年代から、国内外で美術、演劇などを取材し、新聞文化面、専門雑誌などに記事を書いてきました。新聞や「ぴあ」などの情報誌の時代、WEBサイト、SNSの時代を生き、2002年には芸術批評誌を立ち上げ、2019年、自らWEBメディアを始めました。情報発信のみならず、文化とメディアの関係、その歴史的展開、WEBメディアの課題と可能性、メディアリテラシーなどをテーマに、このメディアを運営しています。中日新聞社では、企業や大学向けの文章講座なども担当。現在は、アート情報発信のオウンドメディアの可能性を追究するとともに、アートライティング、広報、ビジネス向けに、文章力向上ための教材、メディアの開発を目指しています。

CTR IMG