See Saw gallery+hibit(名古屋)2022年1月15日〜2月26日
佐々木耕太 花木彰太
それぞれ東京、愛知を中心に制作、発表している2人によるグループ展である。
ともに、色彩を抑え、分析的な制作過程を踏まえたフォーマリズム寄りの作品である。
絵画によって、不確かな空間と実在しない影、 現象としての相対的な色彩などを探求している。
佐々木耕太さんは1982年、千葉県生まれ。2012年、東京造形大学造形学部美術学科絵画専攻卒業。
主に東京での個展、グループ展を中心に発表している。
花木彰太さんは1988年、愛知県生まれ。2014年、愛知県立芸術大学大学院美術研究科油画・版画領域修了。
2018年にSHUMOKU GALLERY(愛知)で、2015年にGALLERY VALEUR(愛知)で個展を開いている。2019年の「瀬戸現代美術展2019」(愛知・旧産業技術総合研究所中部センター瀬戸サイト)などにも参加した。
aai oua 2022年
佐々木耕太
筆者は、初めて作品を見る作家である。
多様な作品のバリエーションがあるそうだが、今回の出品作は、緻密に描かれた建築空間のパースや、 仮構的に捉えた影がフラットに構成された図などがモチーフである。
美術評論家の中尾拓哉さんを交えた初日のトークイベントを聴いたが、絵画になる前段階の設定や、制作過程の説明があまりなく、分かりづらい部分もあった。
建築空間という視覚化されたものの中にある、実在しないもの、不確かなものを作品にすることで、逆説的に空間の豊かさ、不可思議さをフィクションとして提示していると言えばいいのかもしれない。
例えば、モデルルームやギャラリーなど、実在する具体的な空間を題材に作った建築模型や3DCGで、ある光源を設定し、影をつくる。
その平面のイメージ図で壁を立ち上げ、歪んだ空間で、別の光源から光を当てたシミュレーションによる影も加える。
つまり、ある現実空間のパースを基にしたありえないイメージの中に、異なる光源から光を当てた2つの時間のレイヤーを共存させる。
あるいは、建築空間に光が差し込むときの影についての虚構の影を、ドロップシャドウというコンピューターのソフトウェアによる視覚効果によって仮構的に抽出した作品もある。
これらは、現実の建築を基にしたミニマルな抽象空間に、異次元、異時間のレイヤーが折り込まれた作品である。
そのほか、キャンバスの表面に油絵具で突起や起伏がつくられ、物理的に影がつくられている作品もあった。
作品は、窓に近い部分に展示され、自然光によって画面に突起や起伏の影ができるようにも目論まれている。
繊細なストライプが、突起や起伏の荒れた表面を逡巡しながらも力強く引かれているのが印象に残る作品である。
花木彰太
一方、花木彰太さんの作品は、支持体を大胆に変形させた絵画。表面にのせた色彩や筆触の物質面と光学面を突き詰めた、フォーマリズムを意識した作品と言ってもいいだろう。
いずれも微妙な色彩で描かれ、見えることの相対的なあり方、色彩の揺らぎが提示されている。
〈border(red to green)〉は、4点組の作品で、それぞれがMDFパネルにアクリル絵具で描いてある。
色彩を探究しているという点において、愛知を拠点とし、同じ時期に「DOMANI plus @愛知 『まなざしのありか』」展に出品した大塚泰子さんと重なる問題意識も感じた。
支持体は、中央が尾根のように高く、切妻屋根のように両側に向かって傾斜している立体である。
左から右に向け、赤から補色関係の緑へとうつろうように色が変えてある。三次元的な支持体に塗られた物質としての色彩が、光学的な現象として捉え直されている。
その一方で、左右に走らせた筆跡がかなり意識的に残されているのも特徴。色彩を、光学的な現象とペインタリーな存在感という両面的なありようで捉えた作品である。
タイトルにあるボーダー(境界)ということで言えば、この作品では、絵画と立体(二次元と三次元)、赤と緑、切妻屋根風の支持体の左と右、光と物質など、緩やかで相対的な境界がいくつもほのめかされている。
コの字型のアルミニウムレールよって、天空の星座を線で構成した作品である。アルミニウムは黒色のアクリル絵具で塗られている。
天空で私たちが見ている星はここにはない。星があって星座があるのではなく、線のみがあって星はないという反転である。つまり、天空で不可視の線だけが作品になっている。
ここでも、花木さんは絵画的な要素を残していて、アルミニウムレールの縦方向に沿ってアクリル絵具の筆触がある。
ギャラリー空間のコーナーに同化するようにさりげなく展示された作品もあった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。(井上昇治)