ギャラリーヴァルール(名古屋) 2023年3月28日〜4月22日
佐々木恵海
佐々木恵海さんは1998年、愛知県生まれ。2023年に名古屋造形大学大学院造形研究科を修了したばかりのペインターである。
2021年に名古屋市市政資料館で個展を開いている。ヴァルールでの個展は初めて。2023年5月3日~6月18日には、アートラボあいち(名古屋)で開催される名古屋造形大学企画による3人展「風土」に参加する。
この展示では、画家のMITOSさんが出品者を選んでいる。他の作家は小杉滋樹さん、瀬川晃さんである。
「通りがかりの DかEかF…」
佐々木さんのモチーフは「風景」である。ただ、それは通常イメージする風景というよりは、日常で出会った場面という感覚に近い。
山々や森林、平原、海岸や川、湖沼、歴史建造物など、いわゆる自然、名所を中心とした景色ではなく、都市の街路、建造物やその一部、交通機関、人物も含むものである。中には、人物がメインということもある。
生活の中で目に留まったview (視界)という感じである。そこから色彩豊かに柔らかい形として抜き出すようにして、おおらかに描く。
普段乗っている電車の駅のホーム、電車の座席に座っている人、画廊の入り口、通りすがりの建物、並んでいる窓、階段‥‥。何が描かれているかおおよそ分かるものもあれば、認識できないものもある。
普通なら、主題にならない背景のような光景を写真やドローイングによって切り取って、絵にする。電車の中の人を、タブレットの描画ソフトを使ってドローイングしたものが基になっている絵もある。
思うに、佐々木さんは、フレーミング、トリミングの感覚が鋭く、同時にしなやかである。気をてらっているわけではない。
そのうえで、潜んでいる形に注目して描いている。それは、目の前の風景の中の形と作家の中の秘められた形が重なり合うように浮かび上がったものではないか。
佐々木さんはこの描法を「日常の風景が先入観からリセットされる、フレッシュな物の見方ができた瞬間」と捉えている。そこから、不思議な、いくらか神秘的な、わくわくする感覚が生まれる。
もう1つの魅力は、豊かな色彩感覚である。全体的には淡く、やわらかな、穏やかな感じが、私にはとてもいい。キャンバスに油絵具、クレヨンで描き、鉛筆も使っている。
現実とは異なる色に変換している。絵肌も変化があって、所々の盛り上がってツヤっとした感じや、はじかれたような部分が効いている。
佐々木さんにとって、そのとき、そのときの嘘のない「風景」が素直に現れている。普段の生活の中から切り取った素朴な風景。眺め、歩き、見る実感によって、切り取った形の発見と、自身の内界にあるイメージが溶け合いながら、新鮮な「風景」が生まれる。
いつもの地下鉄ホームや、行き慣れた道から見た建物に対して、見知らぬ空間、街路のような感覚に陥る未視感ともいえる「風景」が現れる。
切り取った視界が、柔らかな線による、ゆったりとした形になり、傾き、浮かんでいる。どこかおぼろげで、希薄で、神秘的で、それでいて、いとおしむような感覚、温かさがある。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。(井上昇治)