Gallery HAM(名古屋) 2024年6月29日〜 8月3日
作間敏宏
作間敏宏さんは1957年、宮城県生まれ。1982年、東京藝術大学大学院修士課程修了。1990年代以降、「治癒」「colony」「接着/交換」という3つのシリーズを展開している。
名古屋での個展は2021年、2022年にGallery HAMで開かれ、今回は3回目となる。
発生生物学者の岡田節人さん(1927-2017年)の、生き物は接着と交換によって生き延びているという言葉が全シリーズを貫く。そこから、人間と血族、社会をも主題となる。
生命が生き延びるとは、生命と生命の接着 / 交換(新陳代謝)をすることであり、単独では生きられない。人間もまた同様であるという思想が通奏低音をなしている。
2021年のGallery HAMでの個展は「colony」がテーマで、2022年は「治癒」の新作を見せた。今回は、「接着/交換」である。ただ、これら3つのテーマは互いに混じり合っていて、峻別されるものではない。
作間さんのインスタレーションでは、作品によって、各々の要素が群生するようにしつらえられる。電球、名札、刺繍枠に張ったレース生地など、さまざまなものが集積される。これらの1つ1つが生命の隠喩である。
「接着 / 交換」 2024年
今回の個展では、「接着 / 交換」シリーズの作品として、MDF(木質ボード製)製の六角形の板を増殖させるようにギャラリーに設置している。その数は1000枚ほど。各々の板は、角を落としているため、円形にも見えるが、六角形である。
作間さんは2000年、米ニューヨークの個展で、六角形のボール紙製のビルダーカード1500枚を蟻塚のように集積させたインスタレーションを発表している。今回はその作品の新たな展開である。
当時は、併せて、日本人100人分の顔画像を重ねた写真の連作を会場に15点展示したが、今回は写真作品はない。
六角形のMDF材は、大中小3種類ある。それらが連鎖するようにつながる。画廊空間の床と壁の境目を這うように広がり、角に集積し、そこから上に上がるように延びている。
また、別の場所では、壁の中ほどに水平に広がり、空間の角で上下に延びていく。小さな六角形が増殖するような展示は、それぞれがとてもはかなく、弱く感じられる半面、強い生命力も感じさせる。
六角形の素材には、多くの微細な穴があいている。こちらと向こうを遮断するのではなく、さまざまなものが通過する新陳代謝のイメージもあるのだろう。
作間さんは2011年の東日本大震災によって、作品の題材にしてきた「ビニールハウス」が、故郷、宮城県亘理町でことごとく倒壊し、ビニールが破れるのを目撃した。
これを機に、ビニールハウスが、外から内を遮断・防御するものではなく、繊細な皮膚のメタファーへと意味を変えたのである。
以後、作間さんは、無数の穴を空けた豚の生皮を縫い合わせた作品も制作するようになった。今回のMDF材に細かい穴が多くあいているのも、そのためであろう。
つまり、細胞のような六角形のMDF材は、さまざまなものが行き交う繊細、フラジャイルなものとして生命活動を暗示している。
個体の区別はなく、細胞分裂し、増殖していくイメージである。接着し、交換され、新陳代謝によって、老いたものが死に、新たな生命が生まれる。
それはまた、全ての細胞、生き物、人間が個では生きていけず、弱いもの同士が支え合っている姿でもある。
筆者は、ここにまさに、単独では存在できず、関係によって存在する宇宙法則、対等、平等でつながりあって生きている全ての生き物、なかんずく、人間の存在を見る。
自分が存在するのではなく、他力によって生かされ、他とのつながりによって、初めて自分がある。
弱く、失敗をし、過ちを犯し、自分が何をしているかさえ分かっていない、凡夫たる全ての人間。全ての生き物によって生かされていること、そのつながりによって生きていることを忘れている人間への洞察も、ここにはあるのではないか。筆者は無常、無我、空も感じた。
作間さんの作品は、コンセプト重視に見られがちだが、実際には自分が生まれ育った東北の土着性、記憶、遭遇した出来事による深い念いや、感覚、身体性に土台があることも付言したい。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。(井上昇治)