Gallery 佑(名古屋) 2021年11月6〜21日
旅色〜版と陶〜森岡完介 / 酒井智也 二人展
名古屋市の版画家・画家の森岡完介さんと、愛知県瀬戸市の陶芸家、酒井智也さんの2人展である。森岡さんについては、2021年1、2月の個展の際に詳細な記事を執筆しているので、今回は、酒井さんにフォーカスする。
森岡さんは、 Gallery 佑に隣接するサロンジャルダンアートギャラリーで同じ会期の2021年11月6〜21日 、「森岡完介『1975』版画展〜鯉江良二さんを偲ぶ〜」も開催している。
酒井智也
酒井智也さんは1989年、愛知県西尾市生まれ。高校卒業後、いったん自動車部品工場に就職。3年後、美術教諭を目指し名古屋芸術大学陶芸専攻に入学した。
卒業して、美術教諭として働くが、陶芸の魅力が忘れられず、岐阜県の多治見市陶磁器意匠研究所で学び直した。
自動車部品工場に勤務していた頃は、旋盤を使った金属加工を担当。 陶芸では、電動ロクロを使った作品を制作する。
つまり、酒井さんは、回転させながら加工するという点で一貫している。作品の複雑な形態は、一部、手びねりによるものかと推察したが、全てがロクロによるという。
近年、個展に加え、国内外のグループ展にも精力的に参加。2021年の第12回国際陶磁器展美濃で、銀賞を受賞した。
回転体を組み合わせたカラフルな形態
酒井さんの作品の特長は、ロクロによって成形したパーツを組み合わせ、奇妙な形態をつくるところにある。
とても小さなパーツを含め、全てがロクロで作られていると聞いた驚いた。回転体が結合して、実に多様な形態が生みだされているのである。
作品は、器物もあるが、大半はオブジェといっていいものである。完全にオブジェである作品以外に、器物とオブジェの中間に位置するものもある。
つまり、オブジェでありながら、一部の作品は、ロクロで作られた陶器ならではというべきか、内部の空洞性を暗示する穴が開き、ドライフラワーなどを挿すこともできる。
ユニークなのは、酒井さんが予め、設計図通りにこれらの形態を作っているのではなく、ほとんどロクロの回転の中で、無意識に近いかたちで形態を生みだし、それを接合していることだ。
いわば、ロクロという回転するシステムに、酒井さんの身体性と無意識が関わって、それらが手によって土に伝わるわずかな変化が可塑性によって形に現れる。
土と身体の間のインタラクティブなプロセスで立ち現れる形は、さまざまに接合され、意外性のあるイメージとして構築される。
酒井さんが過去に見た風景、アニメーション、映画など、さまざまな記憶の中のイメージが混入しながら融合され、私たちに沈潜するイメージとも共振する。
回転体を基本としながら、実験のプロセスのように無意識と意識、記憶、身体性など複雑なレイヤーを折りたたんでいく。
もう一つの特長は、カラフルな色彩である。米国製のセラミック用顔料は、日本にはない鮮烈な発色を生み、ポップな印象を与える。
その一方で、酒井さんは、形態を本質と捉え、色彩をファッションのように捉えているのが面白い。
自由自在で、多様、軽やかな米国製の色合いは、うってつけである。
酒井さんの作品は、ファッションをまとうように、さまざまな色彩に覆われることで、予想を超えるような影響を受ける。酒井さんは、形態の印象が思わぬ方向にいくことをも含め、実験的に関わっている。
その点で、酒井さんの作品は、あえて偽装的な色彩を帯び、釉薬のタレに見えるところをそれっぽく粘土で装っているところを含め、陶芸のパロディーにもなっている。
カラフルで、玩具のようなそぶり、ユーモアを見せながらも、ロクロによる回転体を寄せ集めて構築するなど、とても陶芸的である。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。(井上昇治)