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酒井博司 多治見市陶磁器意匠研究所(岐阜)2022年1月29日-3月6日

多治見市陶磁器意匠研究所(岐阜県) 2022年1月29日〜3月6日

酒井博司

 酒井博司さんは1960年、岐阜県土岐市生まれ。1983年、名古屋工業大学卒業。1985年、多治見市陶磁器意匠研究所修了。

 美濃焼を代表する志野に魅せられ、加藤孝造さん(重要無形文化財保持者)に師事。

酒井博司

 日本伝統工芸展を中心に活躍し、国際陶磁器展美濃陶芸部門銀賞(2002年)などを受賞した。

 国内外でグループ展、個展を多く開いている。最近では、ギャラリーヴォイス(岐阜県多治見市)での「美濃からの発信 やきものの現在」(2021年)にも出品している。

 パブリックコレクションは、岐阜県美術館、岐阜県現代陶芸美術館、ファエンツァ国立陶芸博物館、茨城県陶芸美術館、牛田コレクション(多治見)など。

酒井博司

 美濃焼の伝統である志野の本質を踏まえつつ、既成のイメージに向かって制作するのではなく、自身のセンス、作家性を何よりも大事にしている陶芸家である。

 鼠志野の技法を土台に現代的に捉え直したその藍色志野は、形態と色合い、表面の「梅花皮(かいらぎ)」が一体となって、独自性を放っている。

 伝統に根差しながらも、一般的にある志野とは異なり、現代感覚がみなぎっている。           

2022年 多治見市陶磁器意匠研究所

 今回展示された意匠研究所のギャラリーの白い空間では、洗練されたモノトーンに近い色と流線形をほうふつとさせる形態が一層際立って見えた。

 酒井さんは、加藤孝造さんから学びつつ、それを乗り越えようと志野の概念をラジカルに追究してきた。

 自ら開拓した様式美は、優雅さと力強さを併せ持ち、斉整たるたたずまいの中にも繊細な変化を見せている。

酒井博司

 出品された作品は、一貫して、端正なラインと、張り詰めたような洗練された形、表面をオールオーバーに覆う梅花皮が特長である。

 下地のオニイタに呉須を混ぜた藍色志野は、わずかに青みがさしたようなグレーに近い色合い。一方、志野は、透き通るような優しい乳白色である。

 白い長石釉がたっぷりかけられ、志野と聞いて思い起こす緋色がここでは全く見られない。

 いわば、秩序整然とした風情である。

酒井博司

 こうした色合いとともに注目されるのは、シャープなフォルムの美しさである。

 筆者は、酒井さんのつくる均整のとれた形態の中に、速度感を感じる。ろくろ成形による回転体そのものというようなアウトラインの美しさである。

 これは、スポーツカーやオートバイが趣味という酒井さんの形態へのセンスが身体性として現れているものだろう。

酒井博司

 このフォルムを最大限生かすため、口を小さくつくり、美しいラインを途中で切断することなく、強調して見せている。

 加えて、酒井さんの作品では、表面を削って縦のラインを出すことで、シャープさを増している。

 縦のラインを精緻に引くことで、アウトラインとの緊張感が生まれる。

酒井博司

 側面の縦ラインに沿って、釉薬の濃度を変えてスプレーがけすることでグラデーションが生まれ、梅花皮の割れにも変化が生じる。

 ミニマルと言っていいほど均質なモノトーンのストライプの中にも、きめ細やかな表情があるのが魅力。

 形とラインの美しさ、梅花皮の豊かさを味わいながら、これこそが酒井さんらしい現代的な表現であるのだと感じた。

酒井博司

最後までお読みいただき、ありがとうございます。(井上昇治)

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文化とメディア—書くこと、伝えることについて

1980年代から、国内外で美術、演劇などを取材し、新聞文化面、専門雑誌などに記事を書いてきました。新聞や「ぴあ」などの情報誌の時代、WEBサイト、SNSの時代を生き、2002年には芸術批評誌を立ち上げ、2019年、自らWEBメディアを始めました。情報発信のみならず、文化とメディアの関係、その歴史的展開、WEBメディアの課題と可能性、メディアリテラシーなどをテーマに、このメディアを運営しています。中日新聞社では、企業や大学向けの文章講座なども担当。現在は、アート情報発信のオウンドメディアの可能性を追究するとともに、アートライティング、広報、ビジネス向けに、文章力向上ための教材、メディアの開発を目指しています。

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