ギャラリー数寄(愛知県江南市) 2022年3月5〜21日
裂
愛知県豊橋市の現代美術家、味岡伸太郎さんと、同市の陶芸家、稲吉オサムさんの2人展である。
味岡さんは1949年、愛知県豊橋市生まれ。採取した土を絵具のように使った絵画的作品、木の幹、枝で構成した造形作品、書などで知られる。
筆者が美術記者をしていた1990年代から取材している作家である。
2016年には、あいちトリエンナーレ2016に出品した。
近年は、2021年のRED AND BLUE GALLERY(東京)での個展、2019年のギャラリーサンセリテ(愛知県豊橋市)での個展を取材している。
一方、稲吉さんは1976年、愛知県豊橋市生まれ。2002年、愛知県立窯業技術専門校修了。米国、京都の画廊などで個展を開いている。
ギャラリー数寄では、2015年に個展を開催。2018年に3人展の1人として参加した。
稲吉さんは、平安時代末期から鎌倉時代にかけてつくられた渥美焼の再現を目指し、考古的なまなざしによる野趣あふれる作品に取り組んでいる。
今回は、「裂」をテーマに、2人がギャラリー数寄の1、2階の全スペースを使い、展示を試みた。
「裂」は、文字通り、分裂、亀裂、破裂を意味する。
2階は、大空間に、2人の作品がダイナミックに展示され、大変見ごたえがある。
味岡さんは、枝や幹を縦に裂いて構成した「えんちゅうのしぶんのいちのしかくちゅう」の大型作品、書「裂」を並べた。
一方、稲吉さんは、崩れたり割れたりした自然釉広口壺や、原土による練込陶板約200枚を縦横に連ねた陶壁を展示した。
現代美術でありながら素材の力、自然の摂理を引き出す味岡さんと、陶芸でありながら意図せず現代美術的センスをもつ稲吉さんの作品は、とても相性がいい。
1階には、味岡さんによる木の立体や書、稲吉さんの陶芸作品が多数展示されている。
また、木の枝で骨組みを構築し、泥染めした木綿の壁で仕切った味岡さんの茶室「泥裂亭」も構築された。
会期中の土日祝には、稲吉さん、味岡さんが出品した茶碗から1つを選び、この茶室空間で抹茶を味わうことができる。
味岡伸太郎
今回の作品の中心となる「えんちゅうのしぶんのいちのしかくちゅう」は、とてもユニークな作品である。詳しくは、2021年の東京での個展レビューを見てほしい。
円を四分割した4つの扇形の内と外をひっくり返すと、正方形ができる。
単純にその発想で、さまざまな幹や枝を縦方向に4分割するように裂いて、内外を反転させて組み立てることで、円柱を四角柱にするという立体作品である。
1つの幹、枝に対して、この作業を数回繰り返すが、自然木が枝分かれし、曲がっているため、ルールにしたがって制作するだけで、複雑な予期せぬ形態が生まれる。
作為性を排し、一定のルールに従うのみで、あとは自然の形を受け入れるのが、この作品の主眼だが、それは味岡さんの制作で一貫しているものである。
今回は、ギャラリースペースの1階に小品、2階に大きい作品を展示した。
特に、2階の展示では、うねるような木の幹から生まれた形態のダイナミズムが、自ら書いた書「裂」や、床に無造作に置かれた稲吉さんの渥美焼の壺と共振し、エネルギーを充溢させている。
自然との対話の中で、巧まざる制作の偶然と必然によって導かれた形が何よりも魅力である。
稲吉オサム
稲吉さんは、壺、茶碗、ぐい呑みなど、普段は用途性のある器を制作している。渥美焼の存在を知り、リサーチを深める中で、その魅力に引き込まれたとのことである。
700年前の渥美焼を再現模写しながら、今の視点からその意味を問いかける稀有な存在といっていいだろう。古いものを写しているが、当然、現代性を帯びる。
今回は「裂」のテーマに合わせ、歪み、崩れ、割れた作品を数多く出品した。
一階では、台に載せ、各作品をじっくり見せている。柿平(愛知県新城市)の窖窯で焼いた作品は、荒々しく力強い。
制作前の粘土の塊をそのまま焼いたオブジェもある。豪快で、それでいて土塊の表面が大小さまざまに粒だち、繊細な表情を見せている。
「裂」のテーマにふさわしく、ところどころに亀裂が入っているのもユニーク。
黒い塊の一部にピンポイントで施した金彩がアクセントになっている。愛知県東栄町の黄鉄鉱を意識したとのことで、ここにも稲吉さんの歴史的、考古的なまなざしが見てとれる。
2階の床面や、茶室の中などに置いた自然釉広口壺は、激しく変形して破れ、生き物のように野性的である。
原土を使ったという陶壁もプリミティブで変化に富み、生き生きと躍動するような力を内在させている。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。(井上昇治)