記事内に商品プロモーションを含む場合があります

名古屋市美術館 現代美術のポジション 2021-2022

現代美術のポジション 2021-2022

 名古屋市内や近隣地域で活躍するアーティストを全国に発信する「現代美術のポジション 2021-2022」が2021年12月11日~2022年2月6日 、名古屋市美術館で開催されている。

 1994年に始まり、今回が通算6回目。

 対象は、東海3県出身の作家か、この地域の美術系大学などで芸術を学んだ作家のうち、個展やグループ展で発表を重ねてきた中堅作家、今後の活躍が期待される若手作家。

 今回は、寺脇扶美さん、鈴木孝幸さん、本山ゆかりさん、川角岳大さん、横野明日香さん、木村充伯さん、水野勝規さん、多田圭佑さん、水野里奈さんの9人が選ばれた。

 それぞれの作家による代表作や意欲的な新作を展示。現代と向き合う作家たちが模索する最先端の表現を通じて、世界の今とこれからを見据える。

  従来の価値観が行き詰まり、社会が閉塞感に覆われる今、私たちはどう生きることができるのか―。

 既存の枠組みを超え、表現を日々深化させることで、「今」を更新し続ける美術家たちが新たな視点と生きることの豊かさを提示してくれる。

POSITION 2021-2022

寺脇扶美 

 寺脇扶美さんは1980年、愛知県生まれ。2005年、金沢美術工芸大学美術工芸学部美術科日本画専攻卒業。2007年、金沢美術工芸大学大学院美術工芸研究科絵画専攻日本画コース修了。

 愛知県を拠点に制作している。名古屋での個展は2018年、Gallery Valeurで開いている。

寺脇扶美

 鉱物の写生、そのデジタル化、エンボス加工、日本画顔料による着彩など、複合的なプロセスを経て制作する。部分的に箔も使用。

 各段階でイメージを分解、再構成する。長い時間性を内在させた鉱物の複雑な存在感、循環的なあり方をも反映させ、多様性、多視点などの主題が作品に現れている。

寺脇扶美

 ダイヤモンドやウラン鉱石も題材とし、社会的な問題意識もうかがわせる。出産や育児の体験が基になった作品もある。

鈴木孝幸 

 鈴木孝幸さんは1982年、愛知県蓬莱町(現・新城市)生まれ。新城市在住。2007年、筑波大学大学院芸術研究科修士課程修了。

 ギャラリーハム(名古屋)での個展、旧門谷小学校(新城市)でのプロジェクトなどで精力的に活動する。

鈴木孝幸

 地元の新城市をはじめ、各地の自然を訪れ、土や石、樹木などの自然物の移動、集積、配置などの行為に関わる。

 そうした物質の存在と場所、空間、ランドスケープあるいは身体、視覚、意識との関係性をテーマに制作する。

鈴木孝幸

 今回は、大地の揺れ(地震)をテーマに、映像、インタビューの音声、採集物、地図、造形物などで多角的に表現している。

 主観と客観、身体性や感覚と概念あるいは思考、体験や行為と想像力、そして時間性など、作家による制作は壮大な背景、全体性を志向している。

 「鈴木孝幸 ギャラリーハム(名古屋)4月10日まで」2022年のGallery HAMでの個展2022年の愛知県豊川市桜ヶ丘ミュージアム「鈴木 と 鈴木 ほる と ほる」のレビューも参照。

本山ゆかり

 本山ゆかりさんは1992年、愛知県生まれ。

 愛知県立芸大美術学部油画専攻卒業後、京都市立芸大大学院美術研究科油画専攻を修了。京都を拠点に制作している。VOCA展2022に出品する。

本山ゆかり

 支持体とメディウム、地と図の関係への探求など、壁や布、アクリル板、ロープなど、さまざまな素材を使いながら、絵画の可能性を軽やかに、分析的に提示している。

本山ゆかり

 「本山ゆかり 文化フォーラム春日井 5月11日まで」「task  アートラボあいち 名古屋芸術大による企画展」「愛知県美術館 2020年度第3期コレクション展」も参照。

川角岳大

 川角岳大さんは1992年、愛知県生まれ。愛知県立芸大を卒業後、2017年に東京藝術大大学院美術研究科を修了。埼玉県で制作していたが、拠点を三重県に移している。

川角岳大

 2016、2017、2020年にgallery Nで個展を開催。「VOCA展2017 現代美術の展望─新しい平面の作家たち」にも出品している。「アート・アワード・イン・ザ・キューブ(ART AWARD IN THE CUBE)2020 清流の国ぎふ芸術祭」で、遠藤利克賞を受賞した。

 絵画、インスタレーションを、独特の対象や空間、時間の捉え方で制作する。多視点的、多時間的というのか、形と空間のゆがみ、ねじれがユニーク極まりない。

川角岳大

 2020年、gallery N(名古屋)での個展レビュー「川角岳大 川底の葡萄 ギャラリーN」「アート・アワード・イン・ザ・キューブ(ART AWARD IN THE CUBE)2020 清流の国ぎふ芸術祭」も参照。

横野明日香

 横野明日香さんは1987年、愛知県生まれ。愛知県立芸術大学美術学部油画専攻卒業、同大学院美術研究科博士前期課程油画・版画領域修了。

 愛知県を拠点に制作。国際芸術祭「あいち2022」に参加する。

横野明日香

 2014年の「絵画の在りか」(東京オペラシティアートギャラリー)、「VOCA展2016」に出品。名古屋のSee Saw gallery + hibitで2018年に個展。

 筆者は、「瀬戸現代美術展」瀬戸サイト(2019年、愛知)で作品を見ている。

横野明日香

 このときは、山並みの間を突き抜ける高速道路や、山から裾野への広がりの風景を描いた油彩画が出品された。

 空間を捉えるときの視点の移動を大きなストロークや小さなタッチとして描き、視覚と身体性が絵画空間につながっていく感覚がスリリングである。

 モチーフと絵画のイリュージョンとの関係が、空間、構図、ストローク、色彩などの大胆な操作によって探求されている。

木村充伯

 木村充伯さんは1983年、静岡県生まれ。

木村充伯

 2007年、名古屋造形芸術大学大学院修了。 静岡県を拠点に制作している。

 動物を主なモチーフに、油絵具による彫刻、クスノキやヒノキを使った木彫や平面作品、インスタレーションを制作している。

 木の毛羽立ち、絵具のどろりとした物質感など素材の特徴とモチーフの関係、生き物と生き物、動物と人間、動物と環境など、さまざまな関係、境界がテーマとなっている。

木村充伯

 2020年のケンジタキギャラリー(名古屋)での個展「木村充伯展 – 呼吸」のレビュー「愛知県美術館 2020年度第3期コレクション展」も参照。

水野勝規

 水野勝規さんは1982年、三重県生まれ。

 2005年、名古屋造形芸術大学美術学科総合造形コース卒業、2012年、京都市立芸術大学大学院美術研究科絵画専攻造形構想修了。京都府在住。

水野勝規

 GALLERY CAPTIONなどでの個展や、各地のグループ展で映像作品を発表している。

 何気ない日常の風景、意識しないと気づくことさえない身の回りの事象や時間、空間を捉えた静謐な映像で知られる。

水野勝規

 今回は、展示と上映という2つの方法を意識して出品している。仮象と実体、表面と遠近感、見えるものと不可視のもの、光と影、静止と動き、垂直線と水平線、揺らぎと歪み、時間と空間、物質、モアレなど、静かな映像によって世界の不可思議さを想起させる。

 2020年、GALLERY CAPTION(岐阜市)であったグループ展「Light and Shade」のレビューも参照。

多田圭佑

 多田圭佑さんは1986年、名古屋市生まれ。愛知県立芸術大学美術研究科大学院博士前期課程修了。VOCA展2022に出品する。

 荒々しい筆触、さまざまな素材の物質感、焦げたよう質感など、すべてをキャンバス、パネルを支持体にアクリル絵具と油絵具のみによって制作している。

多田圭佑

 つまり、タイル、木材、鎖、ビス、焦げ目、汚れ、劣化などに見えるものなど、何から何まで絵具で描かれている、あるいは、構築されている。

 これは絵画なのか、あるいは彫刻家のか。言うなれば、その両方である。

 もっと言うと、さきほど、「支持体」と書いたが、ここでは、絵具というメディウムを支える支持体(キャンバスあるいはパネル)という関係が崩され、メディウムがイリュージョンというより、物質になっているのに、やはり虚構であるという点で、とても面白い作品である。

多田圭佑

水野里奈

 水野里奈さんは1989年、愛知県生まれ。2012年、名古屋芸術大学美術学部洋画2コース卒業、2014年、多摩美術大学大学院美術研究科修士課程絵画専攻油画領域修了。

水野里奈

 「VOCA展2015」、「アーツチャレンジ 2016」(愛知芸術文化センター)などで作品を発表。以後は、首都圏での発表が続いている。

 細密な描写と勢いのあるストロークのダイナミズムが融合し、装飾性、多様な遠近感覚、レイヤーが入り組んだ豊穣な絵画作品を発表している。

水野里奈

 中東の装飾的な表現、水墨画風の筆致、麻キャンバス地の素材感を重視しているとのことである。混色による微妙な色彩がひしめき、豊穣というにふさわしい絵画空間をつくっている。

 「愛知県美術館 若手アーティストの購入作品公開の第3弾 1月22日-3月13日」も参照。

展覧会概要

展覧会名:現代美術のポジション 2021-2022
会  期:2021年12月11日(土)~2022年2月6日(日)
開館時間:午前9時30分~午後5時(金曜日は午後8時まで)
※いずれも入場は閉館の30分前まで
休 館 日:毎週月曜日、ただし1月10日(月・祝)は開館、12月29日(水)~1月3日(月)、1月11日(火)
主  催:名古屋市美術館、毎日新聞社
後  援:名古屋市立小中学校PTA協議会
協  力:名古屋市交通局

観 覧 料:一般1200円(1000円)、高校・大学生800円(600円)、中学生以下無料 ※( )内は前売り

関連事業

展覧会解説会

開催日
①1月9日(日)
②1月22日(土)
時 間:午後2時~(約90分)
講 師:名古屋市美術館学芸員
会 場:名古屋市美術館2階講堂
定 員:90名(先着順) ※午後1時30分に開場し、定員になり次第締め切り
※入場無料、ただし聴講には展覧会観覧券(観覧済み半券可)の提示が必要。
※手話通訳、要約筆記などによるサポートを希望する人は、当日の2週間前までに相談する。

最新情報をチェックしよう!
>文化とメディア—書くこと、伝えることについて

文化とメディア—書くこと、伝えることについて

1980年代から、国内外で美術、演劇などを取材し、新聞文化面、専門雑誌などに記事を書いてきました。新聞や「ぴあ」などの情報誌の時代、WEBサイト、SNSの時代を生き、2002年には芸術批評誌を立ち上げ、2019年、自らWEBメディアを始めました。情報発信のみならず、文化とメディアの関係、その歴史的展開、WEBメディアの課題と可能性、メディアリテラシーなどをテーマに、このメディアを運営しています。中日新聞社では、企業や大学向けの文章講座なども担当。現在は、アート情報発信のオウンドメディアの可能性を追究するとともに、アートライティング、広報、ビジネス向けに、文章力向上ための教材、メディアの開発を目指しています。

CTR IMG