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太田元弘展 織部亭(愛知県一宮市)で2024年10月5-27日に開催

太田元弘

 太田元弘さんは1962年、愛知県岡崎市生まれ。1985年、名古屋芸大絵画科洋画コースを卒業。1986年、 同大美術学部絵画科版画コース研究科修了。

 愛知県岡崎市を拠点に絵画を描き、愛知県一宮市の織部亭などで個展を重ねている。自然、そして自分と対話する中で生まれる清澄な世界は、静かに生気が広がるような色彩と柔らかな光景が特徴である。

 ケヤキなど公園の樹木を描いた後、2012年ごろからは、長野県飯田市にある天竜峡のリンゴ園「天竜峡農園」に通い続けている。

 2019年、2021年の個展で見せた絵画には、リンゴ園をモチーフにさまざまなバリエーションがあった。小さな果実、花のクローズアップ、花に近づく蜂から、リンゴ園を包む空間、あるいは天竜峡全体まで、 多様な作品が発表された。

 既にその頃から、空に広がる雲の神秘的な姿や、空気遠近法によって霞んだ遠方の風景を捉えた幻想的な空間、抽象化した樹影の背景など、単なる具象絵画を超えて描いたと思える作品があった。

 ぼかしや、繊細なグラデーション、単純化や対象の取捨選択によって、現実の風景と抽象性、空想性が組み合わされ、不思議なイメージがつくられていた。

2024年 織部亭個展

 今回の個展では、こうした流れをさらに展開させ、「波動」がテーマとして前面化している。

 ギャラリーの空間に、向かい合うように、横長の大作が展示されていて、目を見張った。1つは長野県・南信の極楽峠から見た雲海、遠方の山並み、もう1つは千葉県の房総半島・九十九里浜を描いている。

 これらは、山や海の風景であるとともに、雲海や山並み、あるいは砂浜の波がエネルギーを観者の方に伝える効果を生んでいる。絵画のイメージが、風景であると同時にパルスになっているのである。

 現れては漂い、消えていく雲や、寄せては返す波など、波動のイメージはとても心地よく、ギャラリー空間に響いてくる。会場を見渡すと、山並みの風景でありながら、波動を抽象化するように描いている作品もあった。より主題を強調したものと言えるだろう。

 仏教では、万物の働き、因縁によって、全てが存在する。お互いの支え合いによって全ては現れてくる。全ては、「もの」でなく、「こと」である。自分自身も自立して存在するものではない。現象である。

 世の中に永久不変のものはなく、漂う雲のように生まれ、流れ、消え去る。これが無常、無我、空である。仏教では、常に変化をしていくエネルギーが宇宙であり、それは波動のようなものである。

 また、現代物理学でも、光や電気など、さまざまな物理現象が粒子のような性質と波動のような性質を併せ持つ二重性を持つことが知られている。宇宙はほとんどが素粒子からできていて、それらは粒子のように、あるいは波のように振る舞う性質を持っている。

 太田さんの作品を見て、思ったのはそんなことである。柔らかな波動を感じ、とても、穏やかで、清らかな気持ちになれる展示であった。

 自分の中の大切な部分、つまり、こころが自分を超えて宇宙とつながって広がり、優しく、慈しみの気持ちになっていくような感覚である。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。(井上昇治)

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文化とメディア—書くこと、伝えることについて

1980年代から、国内外で美術、演劇などを取材し、新聞文化面、専門雑誌などに記事を書いてきました。新聞や「ぴあ」などの情報誌の時代、WEBサイト、SNSの時代を生き、2002年には芸術批評誌を立ち上げ、2019年、自らWEBメディアを始めました。情報発信のみならず、文化とメディアの関係、その歴史的展開、WEBメディアの課題と可能性、メディアリテラシーなどをテーマに、このメディアを運営しています。中日新聞社では、企業や大学向けの文章講座なども担当。現在は、アート情報発信のオウンドメディアの可能性を追究するとともに、アートライティング、広報、ビジネス向けに、文章力向上ための教材、メディアの開発を目指しています。

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