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尾野訓大個展 アインソフディスパッチ(名古屋)で5月7-28日

AIN SOPH DISPATCH(名古屋) 2022年5月7〜28日

尾野訓大

 尾野訓大さんは、1982年、愛知県岡崎市生まれ。2007年に名古屋芸術大学大学院を修了し、同市を拠点に制作している。

 真夜中の風景を対象に、4×5の大判カメラで長時間露光する作品を発表。2019年に三重県立美術館であったテーマ展「パラランドスケープ “風景”をめぐる想像力の現在」に出品している。

 2020年のアインソフでの個展レビュー「尾野訓大個展 ユニバース アインソフディスパッチ」も参照してほしい。

尾野訓大

 前回の個展「ユニバース」では、冬の樹木、やぶを被写体に5時間前後もの時間の露光によって、かすかな光を定着させていた。

 そこでは、人間の目を超えた神秘的な風景を、高度なテクノロジーではなく、むしろ、フィルムへの長時間露光というシンプルな光学装置に委ねてとらえている。

 ベーシックな方法を取るほどに、マインドフルネスが人間の身体、感覚を拠り所にラジカルに「いま、ここ」の宇宙を感じさせてくれるのと同様、人間の想像力が宇宙(外界)と自分(内界)の関わりを深めてくれるのである。

 そんな尾野さんの今回の作品は、より身体性を感じさせるものだった。 

観測者は時空を超えて

尾野訓大

 「観測者は時空を超えて」というタイトルがいい。

 観測者(観察者)といえば、私のような世代だと、1990年代後半に話題になったジョナサン・クレーリー著「観察者の系譜―視覚空間の変容とモダニティ 」を思い出したりもする。

 ここで、観測者は尾野さん自身であるのと同時に、時空を超えた想像力である。

 やぶの中で、4×5の大判カメラを持った作家がその場でぐるぐると回転して撮影して露光したのが今回の作品である。

 時間でいうと、3分ほどの露光らしい。筆者は、この素朴さが好きである。素朴だからこそ、生まれてくる作品が神秘的になる。

尾野訓大

 ユニークなのは、その写真のレイヤーを3〜7枚ほど重ねている点だ。その際、上下左右、裏表を反転させている。

 闇の中を走る光跡写真であるが、動いているのは光ではなく、尾野さん自身である。

 しかも、いくつものレイヤーを重ねているので、闇の中の光の揺らめきの動き、時間、色彩、空間には、宇宙と身体が交わる多次元性、超越性のアナロジーがある。

 作品は、3つの方法で展示している。

 大判の印画紙に焼き付け壁に掛けた展示、透明フィルムに焼き付け、水平に展示しているもの、小判の印画紙をマトリックス状に集めた展示、である。

尾野訓大

 水平に展示したフィルムの作品は、後ろから光を当てていて、発光するようである。

 フィルムの間に透明アクリル板を挟み込んで奥行きを出しているため、イメージが揺らぎ、動画のような印象さえ与えるのが興味深い。

 とても、美しい作品である。シンプルなのだが、身体、植物、時間、地球と宇宙など、さまざまなものが関係しあって、どれも複雑な光と闇、色彩、動き、空間が生まれている。

 飛び交う無数の光子、素粒子が線となり、揺らぎ、たゆとうような光と闇の空間をつくっている。

 この神秘的な光と闇の観測者は、どこにいるのだろうか。

尾野訓大
尾野訓大

最後までお読みいただき、ありがとうございます。(井上昇治)

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文化とメディア—書くこと、伝えることについて

1980年代から、国内外で美術、演劇などを取材し、新聞文化面、専門雑誌などに記事を書いてきました。新聞や「ぴあ」などの情報誌の時代、WEBサイト、SNSの時代を生き、2002年には芸術批評誌を立ち上げ、2019年、自らWEBメディアを始めました。情報発信のみならず、文化とメディアの関係、その歴史的展開、WEBメディアの課題と可能性、メディアリテラシーなどをテーマに、このメディアを運営しています。中日新聞社では、企業や大学向けの文章講座なども担当。現在は、アート情報発信のオウンドメディアの可能性を追究するとともに、アートライティング、広報、ビジネス向けに、文章力向上ための教材、メディアの開発を目指しています。

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