記事内に商品プロモーションを含む場合があります

小野絢乃 o_ff エビスアートラボ(名古屋)で2023年3月9日-4月2日

YEBISU ART LABO(名古屋) 2023年3月9日~4月2日

小野絢乃

 小野絢乃さんは2000年、愛知県生まれ。愛知県立芸術大学美術学部日本画専攻在籍。学生ながら、精力的に個展、グループ展を展開している。

 エビスアートラボでは、「META・FACE  メタ・フェイス」(2022年12月-2023年2月)に参加。このときは、石をかたどった陶を展示した。

 一方、その少し前、2022年7月の「BLACK TICKET 2022」では、絵画を発表した。日本の伝統絵画と、漫画、現代美術、アニメーションの要素が融合したような作品だった。その中の1つは、日本刀をもったセーラー服姿の人たちと燃えさかる大男の緊迫した場面がユーモラスに描かれている。

小野絢乃

 今回の個展では、石とキャラクターという、全く異なるモチーフを結びつけている。筆者は当初、石とキャラクターの関係が分からなかったが、それがなんとなく見えてきた。

 つまり、それぞれに個性をもつキャラクターを、没個性的で、ことさら自己アピールをしない石という存在になぞらえ、その石を月へと送るという妄想的なストーリーを展開するのだ。 

o_ff 2023年 YEBISU ART LABO

小野絢乃

 ちなみに、2023年2月9日から3月21日まで、愛知県安城市の EIGHT ART HOUSE で開いている個展「Lost Sheep」では、キャラクターを石ではなく、羊のようなもこもこした姿にしている。

 つまり、キャラクターという存在を石や羊にして、キャラ性を消している。ギャラリーに置いてあるステートメントには、昔のアニメーションや、苛烈なコンテンツ消費への関心が薄れたというようなことが書いてある。

 アニメーションなどの作品世界に没入していたかつての自分がそうでなくなり、キャラクターに入り込めなくなった作家自身の哀愁、葛藤がここにはある。

小野絢乃

 それを単なる年齢的な成長に伴うものとみるのか、そうではなく、別の要因が作用しているものとみるのか・・・。

 今回の個展は、石になったキャラクターが月に置かれるという、小野さんの空想からつくられている。

 作品は、個性をなくした石が月面に転がっているという場面の絵や、その石片をかたどった陶などである。

小野絢乃

 かぐや姫は天の羽衣を着て、地上の記憶をなくして、月へ帰っていく。小野さんもキャラクターを石にすることで、キャラクター性の記憶を断ち切ることで、新たな作品展開を模索したのではないか。

 「o_ff」というタイトルは、「off」から来ている。「離れる」という意味である。地上の速度、効率、計らいから遠く離れて、“スイッチ”を切ったキャラクターが姿を変えて休んでいる。そんなニュアンスもあるようだ。

 筆者が思うに、小野さんは、キャラクターが登場する絵画を描きながら、単に物語的な世界を表わしたいのではなく、キャラクターと自分との関係、キャラクターと受け手や社会との関係を問うている。

小野絢乃

 つまり、作品の中で、キャラクターが自己言及的に「自分はこれでいいのか」と問い直している。ただの漫画風の絵に見せながら、キャラクターなるものが社会や人間とどういう関係にあるのかを考えている。

 過去の作品で、キャラクターが手に斧や刀を持って奇妙な存在感を見せたり、自分の描いた絵を槍で突き刺していたりするのも、そのためである。

 石になったキャラクターは、かすかにキャラクター的な性質を残している。顔文字みたいにかわいく刻まれた絵である。作品によっては、注意しないと分からないように石の裏側にある。あえて、自分を主張しないように。

小野絢乃

 現在の地球の状況を皮肉っているともいえる。地球では、忙しすぎて休めないのである。キャラクターは、地球から離れた月で、姿を変えて休んでいる。そんな妄想。

 キャラクターは、今を生きる私たちの反映である。つまり、小野さんの作品は、キャラクターを通じて、私たち日本人の今を問うている。

 キャラクター文化を好みながら、冷静に分析している作家である。 

最後までお読みいただき、ありがとうございます。(井上昇治)

最新情報をチェックしよう!
>文化とメディア—書くこと、伝えることについて

文化とメディア—書くこと、伝えることについて

1980年代から、国内外で美術、演劇などを取材し、新聞文化面、専門雑誌などに記事を書いてきました。新聞や「ぴあ」などの情報誌の時代、WEBサイト、SNSの時代を生き、2002年には芸術批評誌を立ち上げ、2019年、自らWEBメディアを始めました。情報発信のみならず、文化とメディアの関係、その歴史的展開、WEBメディアの課題と可能性、メディアリテラシーなどをテーマに、このメディアを運営しています。中日新聞社では、企業や大学向けの文章講座なども担当。現在は、アート情報発信のオウンドメディアの可能性を追究するとともに、アートライティング、広報、ビジネス向けに、文章力向上ための教材、メディアの開発を目指しています。

CTR IMG