ギャラリ想(名古屋) 2022年6月16〜26日
大無田拓海
大無田拓海さんは1998年、愛知県刈谷市生まれ。愛知県立芸術大学美術学部デザイン・工芸科デザイン専攻の4年に在学中の若手である。
方向性を模索している段階ながら、将来を見据えて、地元となる愛知県の画廊で精力的に発表している。絵画と彫刻の間にまたがる立体で、それにイメージが絡まる。
絵画の形式を解体しながら立体化しているところもあって、その意味では、絵画の形式的要素がむきだしになっているという言い方もできる作品である。
絵画、彫刻の両面を探るという、繰り返し問い直される領域をターゲットにしているとも言えるが、同時に、大無田さんは、イメージに対する関心が強いようにも思う。
タイトルの《Wavering Outlines》は「揺らぐ輪郭」を意味する。会場のさまざまなパターンの作品群を見ると、なるほどと思わせるタイトルである。
Wavering Outlines
19世紀まで、絵画といえば、支持体に絵具がのっているイリュージョンとしての、開いた窓だった。大無田さんの作品は、その構造を解体しつつ、再構成するように立体化したものである。
同時に、イリュージョンを完全に否定しているというよりは、その立体にイメージの残滓としての絵具がこびりついている。
例えば、メインの作品は、角材によって、イーゼルのような形が組まれ、そこに、さらに角材やロープが網状に渡されている。
ロープには、モデリングペーストがつけられ、アクリル絵具で「絵」が描かれている。モチーフは、人物である。
見る者は、このイーゼルのような構造物とイメージを同時に見る。まさに立体と絵画の両方を眺めるように。
しかも、絵具がこびりついたロープは、面としての支持体から派生したものとも言える。
大無田さんの作品は、解体された絵画=立体を見せつつ、同時にイリュージョンを否定することなく、そこに両立させているのだ。
つまり、ここでは、角材とロープによって構築された立体に付着したモデリングペーストの支持体にイメージがあるわけである。
それは、キャンバスの木枠を使った矩形の小さな作品においても言える。
あるいは、角材が組み合わされた断片に麻布が貼られ、絵具で描かれた作品もある。
中でも、イメージと、解体された絵画の構造物の両立ということでいえば、バラをモチーフにした作品が、際立った印象を放つ。
バラの花の静物が描かれたキャンバスが裂かれ、それが角材によって貫かれている。
角材によって構築された立体でありながら、同時に、それらの構造物が絵画を解体した木枠を想起させる作品である。
西洋絵画の1ジャンルである静物が描かれた支持体が裂け目をもち、角材とともに構成されている。立体(彫刻)とも、解体された絵画ともいえる存在感である。
絵画の物質的な構造とイリュージョンが、解体されつつ、再構成され、そこでは、解体と構築、立体(彫刻)と絵画、イメージと物質、支持体とイリュージョンがせめぎあっている。
そこに、「輪郭の揺らぎ」「存在の揺らぎ」が立ち上がる。
一連の作品の背景にあるのは、大無田さん自身が感じている、どこからどこまでが自分なのかという存在の揺らぎである。
シンプルに組んだ角材に麻布を伸ばして貼り、そこに顔のイメージを描いた作品も数点出品されている。彫刻に近い作品ながら、同時に絵画性を存分に残している。
現在は、自分の中にある問題意識とプロセスをまさぐるように、さまざまなタイプの作品を実験的に展開しているようである。
石粉粘土で顔の彫刻を作った後に、その顔のイメージを綿布に描き、還元するようにイメージを元の彫刻に貼った作品もあった。
絵画と彫刻、イリュージョンと物質、イメージと実在が問い直されている。ずれ、歪み、変形した顔は、存在の揺らぎそのものでもある。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。(井上昇治)