L gallery(名古屋) 2021年12月18日〜2022年1月16日
大石早矢香
大石早矢香さんは1980年、京都府生まれ。2004年、京都市立芸術大学美術学部工芸科陶磁器専攻卒業。
個展、グループ展のほか、第43回長三賞常滑陶業展「くらしのやきもの展」長三賞(2014年)、パラミタ陶芸大賞展ノミネート(2017年)、「京畿道世界陶磁ビエンナーレ2019」入選(2019年)、第8回菊池ビエンナーレ入選(2019年)などで精力に作品を発表している。
東海地方では、2016年の「こじまひさやの土の冒険のぼうけん展」( 岐阜県現代陶芸美術館)に参加。2020-2021年の「星月夜」(L gallery)にも出品している。
緻密な細工で器物、オブジェを装飾する手法を駆使し、華麗にして官能的、生命力にあふれるとともに、どこか妖しく不気味な作品をつくっている。
花などの植物や、桃やリンゴなどの果実、アシカ、カワセミ、フクロウ、トンボ、イモリ、コイ、貝などの生き物、手、足、耳鼻など人間の身体の一部‥‥。まがまがしいほどに過剰な装飾が蝟集するように施されている。
2021-2022年 ANIMA
タイトルのアニマは、ラテン語で生命、魂を意味する。大石さんの作品は、この言葉がぴったりするような生命のエネルギーに満ちている。
小品も含め、多数の作品が並ぶと、生きとし生けるものが棲まう楽園のような趣である。
アニマが語源になっているアニミズムは、動植物や物に霊魂、精神的なものが宿るという精霊信仰の考えだが、大石さんの作品の背景には、そんな日本の神話的世界もありそうである。
大石さんがよくモチーフとする桃も日本神話との関係は深い。
死の国から戻るイザナギは桃の実を投げてイザナミを追い払ってこの世に戻る。桃は死や邪悪を追い払う生命力の象徴であり、アーティストのやなぎみわさんも、桃のイメージを巧みに作品に取り入れ、生と死の境界を表現している。
同じく大石さんの作品によく登場するリンゴは、世界でさまざまな意味をもつものとして伝承されるが、北欧神話では不死の源である。
大石さんの作品のテーマに生と死があるのは、頭蓋骨をモチーフとした「メメント・モリ」(死を忘れるな)があることからも印象付けられる。
さらに言うと、大石さんの作品がどこかグロテスクであることにも注目したい。植物、生き物や身体の装飾は華やかだが、同時に奇抜、不調和である。
グロテスクは、古代ローマを起源とする異様な人物や動植物などの曲線模様のことだが、もともとは地下墓所や洞窟を意味する言葉が語源である。
大石さんの作品は、装飾が単に表面を覆うのみならず、増殖するようにつながりながら、裂け目、窪みから奥に入り込むなど、複雑に絡み合うところが特長になっている。
デコラティブな隆起と窪みから、筆者は、明治から大正時代に活躍した初代宮川香山も連想した。
繊細な生き物、植物、身体の装飾は、形態もさることながら、艶やかな色彩という点でも特異である。
今回は、数字の「0」と「1」をモチーフとした新たな試みの作品も出品した。
0と1、剛と柔、白と黒、円と矩形の対比構造が見られ、テキストや画像、映像、音声、果ては宇宙までも二進数で表現するデジタルの世界を想起させる。
この作品は、いくつかのパーツに分かれていて、それぞれの断片が別々のオブジェにもなっている。
パーツの1つが欠けても、補填される仕組みになっている。つまり、循環、輪廻の世界である。
大石さんの作品は、生と死、華やかさとまがまがしさ、祝祭性とグロテスク、聖と俗、ハレとケなどを思い起こさせるが、それは現代のデジタルの世界ともつながる。
陶芸という分野、そして装飾という従来からの問題意識の中にも、生命的、神話的、民俗的な関心、あるいは現代のデジタルの世界観などが反映されている。
心的世界、自己の内面と自然法則、神話的世界がつながっているような作品である。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。(井上昇治)