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大石いずみ個展 FLOW(名古屋)で8月27日-9月11日

PHOTO GALLERY FLOW NAGOYA(名古屋) 2022年8月27日〜9月11日

大石いずみ

 大石いずみさんは1997年、愛知県生まれ。京都精華大学芸術学部洋画専攻卒業。在学中に瀬戸内国際芸術祭2019(香川・高見島)での「高見島プロジェクト」に教員や学生らとともに参加した。

 現在の制作拠点は名古屋である。愛知県岡崎市のmasayoshi suzuki galleryで2022年2-3月に個展を開いている

 そのときは、 瀬戸内国際芸術祭2019での展示作品を中心に発表したが、今回は、ロシアのウクライナ侵攻をテーマにした新作である。

 大石さんは、写真と絵画の境界領域で作品を制作している。2〜3月の個展では、 高見島の島民が島の廃屋に残した白黒のポートレイトを基底面に貼り、油絵具と蜜蠟のレイヤーを交互に重ねた絵画を発表した。

 木製パネルの上に麻布、和紙を重ね、和紙には白黒写真のイメージを拡大してプリント。その上にのせる油絵具、蜜蠟は写真イメージをトレースしながらも、むしろ、それを遠ざけるようにマチエール豊かな絵画に作り直すのである。

大石いずみ

 つまり、写真のイメージを下層に置きつつ、上に蜜蠟の被膜を塗って、かすかに透けるイメージをトレースしつつ表現性を高めて絵画を描く。

 蜜蠟、油絵具の層を反復して重ねることで、描き進めるほどに写真のイメージから距離ができる。「遠ざける」とは、そういう意味である。

 大石さんにとって、描くとは、レイヤーを重ねることで写真の表象から遠ざかりながら、まさにその絵具と蜜蝋の層によって、その写真イメージが写す出来事、存在を受け止め、距離を埋める作業ともいえる。

ワンルーム、カーテンの無い窓、曇り空と昼間の橙

 今回の個展では、ロシアから爆撃を受けたウクライナ領土の平野の俯瞰的写真を使っている。写真は、インターネットから入手したものを使っているのだろう。下の作品では、爆撃によって、炎と煙が上がっているように見える。

大石いずみ

 直接、足を運んだ現地の写真でないという距離感は、もともと会ったことがない高見島の島民のポートレートを使ったときの距離感とパラレルではある。

 もっとも、高見島の作品が、島民のポートレイトのイメージを残していたのに比べると、絵具が厚くこびりついた今回の作品では、モチーフとなったウクライナの平野のイメージがほとんど確認できない。

 作家から説明を受けなければ、戦場の写真だと、誰も気づかないだろう。

 絵具や蜜蝋が自在に塗られたように見える画面は表現性が強く出て、純粋な抽象絵画と言っていいものである。鑑賞者が、そこに、元になった写真との関係を見いだすことは、ほとんど不可能である。 

 つまり、大部分の日本人(あるいは、それ以外の人々も)にとって、「今、ここ」から遠く離れたウクライナの戦場写真が、インターネットなどのメディアの中で、ニュートラルな模像(シミュラークル)になっているのに対し、大石さんの作品は、自分自身が表現性を打ち出すことで、イメージを離れつつ、心理的距離を詰めている。

大石いずみ

 大石さんは、戦場のリアルとシミュラークルの距離を自覚しながら、その距離を絵具と蜜蝋を塗り込めることで埋め、実体がないインターネット画像に絵画としての存在感を付与している。

 今回は、高見島での過去の島民のポートレイトと比べても、写真イメージの痕跡を消し、具象絵画から抽象絵画へと向かっている。

 それは、ロシアのウクライナ侵攻という遠い場所で起きている惨事を、大石さんが、そして、私たちが、「具象」でなく、「抽象」としてしか見られないという、埋められない距離感をも表している。

 埋められない距離感と、絵画としての存在感によって埋めようとした精神的つながりが共存するのが、大石さんの作品だともいえる。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。(井上昇治)

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文化とメディア—書くこと、伝えることについて

1980年代から、国内外で美術、演劇などを取材し、新聞文化面、専門雑誌などに記事を書いてきました。新聞や「ぴあ」などの情報誌の時代、WEBサイト、SNSの時代を生き、2002年には芸術批評誌を立ち上げ、2019年、自らWEBメディアを始めました。情報発信のみならず、文化とメディアの関係、その歴史的展開、WEBメディアの課題と可能性、メディアリテラシーなどをテーマに、このメディアを運営しています。中日新聞社では、企業や大学向けの文章講座なども担当。現在は、アート情報発信のオウンドメディアの可能性を追究するとともに、アートライティング、広報、ビジネス向けに、文章力向上ための教材、メディアの開発を目指しています。

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